12/25 Mon

 やっぱり、夏海は水やりに来ていた。今日はいつも通りに北校舎からするみたいだ。

 俺の誕生日も月曜だったことを思い出す。夏休みも冬休みも関係なく、月曜は必ず学校に来たっけ。

 おはよ、と声をかけても驚かれなくなったのは、いつからだろうか。

 振り返った夏海が同じように返してくれる。


「おはよ」

「今日は水やりせんの?」

「寒くなりそうだから、ここはやめておこうかなって」


 殺風景な花壇を眺めて、そういうものかと思う。ほんと、花のこと、何もしらんよな。


「なに植えとん」

「パンジーとチューリップ。パンジーなら二月に咲くかな。チューリップは四月になってから」


 二月、四月もこんな会話をしているのだろうか。それなら、それで幸せなことな気がするんだけど。

 あのさ、と言うとマフラーにうまった顔が振り返った。もこもこなのに、鼻も頬もちょっと赤い。


「俺、夏海のこと、好きなんだけど、今は付き合う気がないんよ。どぉ思う」


 まっすぐに見て言った言葉で、夏海の目が点になった。困惑顔になって、泣きそうになって、見られないように顔を伏せる。見えるのが鼻先だけになった。


「ど、どぉ思うって言われても音無くんの勝手じゃん」

「夏海は好きな人とは付き合いたいもん?」


 答えが返ってこないじゃないかというぐらい、かなりの時間が空いた。俺はせっかちでもないし、やさしくもないから待ったけど。


「たぶん、付き合いたいね」


 そっか、とひと呼吸置いて、俺の話を聞いてもらう。


「俺は手を出して、傷つけそうで恐いからさ、今は夏海と付き合わなくてもいいと思ってるんだけど」


 そこまで言うと、なぜか夏海は顔を上げた。こっちを睨む瞳が濡れている。ちょっと期待しまっていた俺はひどいヤツだ。


「勘違いした」

「え、なんで」

「音無くんはわたしと付き合いたくないって、思った」

「今は、ね」


 なんそれ、と今度こそ泣きそうな顔をされた。

 俺、なぐさめると超絶苦手なんだけどなぁ。サヤにも、まともな神経求める方が無理だったわとか言われたことあんのに。それは、関係ないか。夏海に勘違いされるんは嫌だし。


「付き合うってなったら、俺的には何してもいいって認識なんね。ほんとに手ぇ、出していいん? 夏海が思ってるより、俺、夏海のこと好きだよ?」


 考え込んで、考え込んで、いっぱいいっぱいと呟いた夏海はしゃがみこんでしまった。

 俺もしゃがむと、夏海が身動ぎする。もがいてるなぁと笑いそうになって我慢した。見えてないだろうけど、我慢した。夏海の意見を聞くために、来たわけだし。


「夏海は俺のこと、好きよな? 付き合いたい?」


 返事がない。あれ、一番仲がいい自信あったんだけど。二人だけで話して、ゲームとかして、出かけたりして、お見舞いしてくれる関係ってそうそうないよな。ううううううん?


「夏海は彼氏彼女の関係になりたいの?」


 情けない声ですがりつく。これで何も言われんかったら……うん、考えまい。

 細く息を吐いた夏海はゆっくりと話し出す。


「音無くんと遠慮しなくていい関係には、なりたいと思ってる」

「遠慮してんの」


 膝に置いた夏海の手に力が込められた。しばらくして引き結んだ口をほどく。


「……ただの友達なら、クリスマスに出かけようっていうのはハードル高いよ」

「え」

「ただの友達だったら、一番に選んでもらえるって自信、持てないよ」

「一番になりたいんだ」


 思わず出た言葉に、夏海が止まった。膝で握りしめられた拳が震えている。


「す、好きだもん」


 もん、て。ここに来て、もん、て。

 しぼり出されるように言われた言葉は隕石よりも破壊力があった。


「じゃ、付き合おう」

「今は付き合わないって」

「触りたいし」

「え」

「何なら、キスしたいし?」


 真っ赤になった夏海と付き合うようになったのは、イルミネーションを見てからだった。



(꜆ ˙-˙ )꜆♡






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