今日の天気が〈予報〉でなく〈予定〉になった世界

  • ★★★ Excellent!!!

舞台は、二十一世紀末の東京。

主人公の天野信晴は、夫婦と一人息子の三人で暮らす、ごく普通の勤め人。職業「気象制御士」。

そう、この時代の人類は、天気を自在にコントロールできる技術を手にしているのです。

一年のどの日が晴れで、どの日が雨なのかを決めるのは、政府の権限。国民は、この〈ウェザーカレンダー〉によってあらかじめ天気を知ることができ、それにしたがって生活しています。

作者さんは、数十年後のこの未来社会を、まるで現地で視察してきたかのようにリアルに描いてくれるので、読者は、違和感なく作品世界に引きこまれることでしょう。

今日の天気が〈予報〉でなく〈予定〉になったこの世界。ただし、〈予報〉が外れることはなくなったかわりに〈予定〉が改変されることは珍しくないようです。しかも、一部の権力者の都合で。

どれだけ科学やテクノロジーが進歩しても、それを利用する人間は進歩しない。

職業上、信晴はそうした権力者のわがままに振り回される、とても損な役回りです。もっともそれだけならば彼ら気象制御士たちにとって、いわば通常業務の範囲内。

しかし、彼自身の生活にかかわる事情のせいで、彼は普段ならしないような、ある決意をします。タダではすまない、大ごとになりそうな予感。

前途は多難かもしれません。

でも、小説の終わり近く、雨があがり、雲が割れ、陽光がさしはじめるシーンを読むとき、読者は信晴とともに、心まで晴れ渡っていく感覚を覚えずにはいられないでしょう。

ほろ苦い清涼感が味わえる、素敵な短編です。

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