名探偵になれそうもないから

 主人公であり語り手である卓也には、妹がいる。
 父親の再婚で。いきなりできた。
 二人いる。双子の妹だ。どちらも美人で、姉が恵梨香で妹が絵里萌。
 二人とも同じ顔で、髪型はストレートロングの方がが恵梨香で、ツインテールにしている方が絵里萌。いや、どうだったか……
 少なくとも、深夜にベッドにもぐりこんでくる『妹』がどちらなのか、決定的な判断材料にならないだろう。
 また、『妹』がなぜそんなことをしてくるかも、名探偵ならざる卓也にはわかるはずもない……そういうお話。

 全く同じ顔で、それでいてえらい美人な双子の妹に囲まれ、しかしそれでも何とか普通の家族の日常を保とうとする卓也……が、しかし夜に現れる謎の『妹』によってかく乱され、その日常が、均衡が少しずつ崩れ、甘く蕩けていく様子がじっくり描かれています。
 ミステリーであれば。フーダニットやワイダニットがテーマとして立ちはだかり、主人公は立ち向かうべきなのでしょう。
 しかしこのお話のジャンルはラブコメであるため、謎に対して『諦める』という選択が、そこへの誘惑が存在します。
 真実と呼べるものがあるとして。それを照らし、暴き出すことは正しい事なのか?
 夜に現れる『妹』の正体を、そもそも追い求めるべきなのか?
 謎は謎のまま。優しい夜の闇を抱き締め、目覚めないままの方が……良いのでは? だってかわいい妹がベッドに潜りこんでいるんだよ?

 双子妹と、夜の『妹』の可愛さも勿論ですが、脇を固める幼馴染の図書委員たる美紀ちゃんも良い味が出ています。幼馴染はお労しいだけのポジションじゃないんだ! 

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