第9話 エピローグ
__「砂糖はいる?」
それに答えたらいけないのだ。だから、違うったら! 「はい」じゃなくて! ああもう、何で思った通りに身体が動かないんだ。今手に持ってる紅茶も飲んだらいけないと言うのに! 私の馬鹿!
ガッと飛び起きようとした身体は、細長い足に抑えられ、目の前には白い天井と沢山の管が何かに繋がれていた。
「起きると死んじゃうよ。さっきまで寒いところにいて、血抜かれてたんだから」
あ、これ律さんの足か。じゃあさっきのは夢。なら良かった。じゃなくて、
「あの人は手で抑えてくれてました」
掠れた声で律さんに訴えると、「良いでしょ別に」と遮られた。
「私、なんとかなったんですか?」
「……たった今?」
「あの人は?」
「何処に行ったかわからないけど、少なくとも捕まってはいないかな」
なんか話を聞く限り、昔からずっとこんな事をやっていそうだったし、そう簡単に捕まりそうな相手ではなさそうだったもんね。無理もない。
「……面倒なことに巻き込んじゃってごめん」とシュンとした様子で律さんが言った。
「大丈夫ですよ、私もいけないところがありましたし」
「確かに君は犯人の思う通りに動いて、のこのこ付いて行って、何より誰にも何も言わず1人で行動したわけだけど」
さっきの同情を返せと言わんばかりに彼はクドクドと言葉を並べたあと、再びシュンとして言った。
「僕の責任だ。本当に申し訳ない」
「でも、律さんが来てくれたおかげで、こうして無事に生きてるんじゃないですか」
出来るだけ気丈に明るく振る舞って言うと、律さんは気まずそうに、それはそうなんだけど……と言ってメモを渡してきた。
次は君を逃さない
とだけ綺麗な文字で書かれている。そう言われてしまったら律さんの元を離れるのだって怖くなってしまう。これから起こり得る最悪の事態を考えると、ゾワっと寒気が襲ってきた。
ああ、日本中何処を探したって殺人犯に命を狙われている女子大生なんていないだろう。次目が覚めた時には、これらの出来事が全部夢だったりしないだろうか。
élégant 神崎 @ki_g_ac
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