九通目 植物の不思議と大事なお願い

拝啓 親愛なる魔王城のみなさま


みなさま、お久しぶりです。

先日のお手紙には大変笑わせていただきました。デーェには自業自得だとお伝えください。一応は私やマフィよりも年長なのですから、無謀な冒険もいい加減に落ち着いて欲しいものです。

城内人員の人界疎開が始まったということですが、私のほうで正確には把握していないのですが地方からの避難民や魔都民の移住も進んでいるようですね。街を歩いていても、ちらほらと擬態した魔族を見かけるようになって来ました。先日龍界を訪ねた際に聞いたのですが、龍族のほうでも魔界の動きに興味を示す向きがあるらしく、何名かと接触を試みているとのことです。なんだかつなぎになった私に重大な責任が発生してしまっているような気がします。


龍族といえば、いただいた苗が夏の間に急に大きくなりまして、とても驚きました。家のベランダに出る窓を半分覆うほどの大きさです。本来はこれほど大きくなる植物ではないらしく、人界で育てている影響によるもののようです。あまり巨大化しすぎても困るので助言をもらいに行ったところ、水を変えてみてはどうか、と提案されました。

龍界の水は人界に比べて若干の塩を含んでいるらしく、それによって成長が抑えられているようなのです。おそらく魔界の植物がいちいち巨大なのも、他の二界に比べて水や土の成分が吸収されやすいものだからなのでしょうね。専門ではないのであまり適当なことは言えませんが、たしかに水の味は違うように思います。魔界の水は甘いです。

そういえば最近お隣さんから栗をいただきまして、あまりに多かったのでペーストにしたのですが魔王城の厨房で覚えたレシピで作ったら少し味気なくなり後から砂糖を足しました。あれはきっと、魔界では水が甘いぶん砂糖を控えているということなのでしょう。

ともあれ、龍界の苗にやる水には少量の塩を混ぜることになり、様子を見始めてまだ七日ほどしかたちませんが手応えを感じています。伸びは落ち着きましたが芽の数は増え、葉に厚みも出てきました。

龍界でまとめていただいた指南書によれば、この苗は次の手紙の頃には実をつけ始めていると思います。それは種を割って中身を乾燥し煎って食べるそうなのですが、それ以外にも茎を割いて酢漬けにしたり、葉を香り付けに使ったりと無駄のない植物だそうです。生産面に不安のある龍界らしい合理的な植物です。

今回付けていただいた荷は、新芽を塩揉みして酒をまぶし瓶にぎゅうぎゅうに詰めたものです。龍界では豆を巻いて、人界ではコメに乗せて食べられます。魔界の食べ物ならたぶん朧茸の薄焼きといっしょに肉に巻きつけたりすると合うと思うので、試してみていただきたいです。実がなったら、そちらも送りたいと思っています。


実は今回、みなさまにお願いしたいことがございます。

現在、戸籍管理部から、兄を引き取らないかと打診されています。

正直なところ、昔の兄との関係は良いとはけして言えないものでしたが、今の兄ならば和解もあり得るのではないかと思っています。なぜなら、兄が私に接する態度は、基本的に父の顔色を伺ってのものだったからです。

以前にも書きましたが、兄は自分のない方です。しかし、それは兄に責のあることとは思いません。あの父という強大な支配者に、生まれた時から手を引かれて生きてきたのなら誰だってああなると思うのです。

だからといって許す気もありませんが、それは「許す」という選択肢を手放すことではありません。それを見極めるために、近くに在るのは良いことではないでしょうか。

ただ不安なのが、私は今現在の兄が生家を失ってどう変わったのかを知らないということです。

なので、みなさまから見ての魔王城での兄の様子を教えていただきたいのです。私の面倒も見てくださっていたみなさまの視点での意見ならば、私も心から信用できると思うのです。

どうか、よろしくお願いいたします。


かしこ

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