十通目 これは苦言になりますが

拝啓 親愛なる魔王城のみなさま


お手紙を、質問から始めることをお許しください。重要なことなのです。

今の魔王城には、いったいどなたが残っていらっしゃいますか?

というのも、先日兄のことについてお手紙した、そのお返事をいただいたのですが、普段でしたら15日程度間が空きますのに、7日ほどでお返事をいただきました。それも、疎開でいらっしゃった女中長様から直接に渡されました。

女中長様から、今後は人界からは彼女が、魔界からは副長様が疎開民を取りまとめられるのだとはお聞きしましたが、近頃こちらでお会いする方々は爵位持ちのかたばかりではありませんし、もともと避難の必要はないとされていた魔都中央に近い家の下男下女のかたも多くいらっしゃいます。それどころか魔王城でお見かけした方ともたくさんお会いしています。みなさま私に会うと兄のお話をしてくださってとても助かります。

しかし、確か計画では、そういった方々の移動は最終段階でのことではありませんでしたか。何か計画を早めなければならない事態が起きているのでしょうか。

正直に申し上げて、魔族が人間の社会に馴染むにはことを進めるのが速すぎると思います。人界の常識とのずれが、目に見えてきてしまっています。先日は人類の前で魔術を使った魔族が拘束されかかったという話もございました。常識の基礎を学びはしていても、それを身につけるには時間がたりないのではありませんか。


……などと言ってもそんな、私でもわかるようなことはみなさまわかっていらっしゃるのでしょう。そのうえでどうにもならないのならせめて、一調査員の身ではありますが状況を知っておきたく思います。よろしくお願いいたします。


このことをなぜわざわざ、みなさまに向けたお手紙で聞くのか、調査部署に問い合わせたほうがいいのではと思われるかもしれませんが、実は最近のお手紙のやりとりで疑問に思ったことがありまして、その確認のためにあえてこちらに書きました。ご不快になられましたら申し訳ないです……。


上で先日のお手紙のお返事について書きましたが、それを受けまして戸籍部に兄を引き取る旨を伝えました。順調に行けばこの手紙がそちらに届くころには一緒に生活を始めていることと思います。

決断に際して一番大きかったのは、マフィからのお便りでした。まさかマフィが兄の専属になっているとは思いませんでした。

お恥ずかしいことに、マフィから兄に魔王城にいた頃の私の話が伝わっているとか。あの頃の私は実家を出た反動でだいぶやんちゃをしておりましたので、兄に会った時にどういった顔を見せれば良いのか悩ましいです。

兄は、最近引っ越していった隣の部屋に入居することになります。最初のお手紙で書いた、ミカンをくださった右隣の方のところです。

マフィももし一緒に来るのなら、ぜひ私の部屋を寝泊まりに使ってください。


前回のお手紙で書いた龍族の植物については、早めに実りましたので今は種の中身を乾燥させています。天日で干せれば速いのですが、近頃は雨が多く捗りません。魔界の十年単位の雨季に比べれば多少湿る程度ですが。龍界の雨季はもっと長期で規則性もなく測りづらいと言ってらっしゃいました。どういった要素が影響してそうなるのでしょうね。もしかしたら、世界の外側の理が関わっているのかもしれませんね。魔王城図書倉庫の、外界者の残した書物が今こそ読みたいです。持ち出し出来ないのが悔やまれます。


次のお手紙は、少し開くかもしれません。理由はまた次回に。


かしこ

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拝啓 魔王城のみなさま 小夜舟 @sayofune

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