想いは届く。20年の時刻差を超えて。

――かつて時間の神さまが、言葉を乱した神さまのように、人々の時間を乱した。
 幕開け早々に明かされるこの作品の世界設定は、具体的にどんな状態なのかすぐには想像にしくく、けれど、それだけでわくわくさせられる魅力があります。神さまのイタズラにより時間が共有できなくなった人類ですが、「時刻共有サービス」というテクノロジーによってのみ、電話を介して同じ時間を過ごすことができる様子。このサービス利用時の定型句らしい、「私時間」「貴時間」という言い回しが実に面白く、一気に物語に引き込まれました。
 序盤では「どういう仕組みなのかは交換手しか知らない」とあやふやにされてしまう「時刻共有サービス」の真相は――終盤のお楽しみとして。
 時間差という超えられない距離の向こうにいる相手を思う、主人公の感情描写が丁寧で、青春の甘酸っぱさとともにほろ苦い切なさを覚えます。そんな彼女が思わぬ相手から助言を与えられるところからが、この物語の「時間SF」としての本領発揮。伏線が見事に回収されていく最終話の展開と、晴れやかな読後感に浸れる末文に、心からの拍手を。

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