「もし、もし……」

 バベルの塔が神によって崩され、言語がバラバラになったように、1人1人の時間までも切り離されてしまった世界。違う時間を生きる人々を繋ぐのは、ひとつの『時間共有サービス』だった。『私時間』と『貴方時間』が交換手によって繋がれるとき、時空を越えた通話が始まる──。
 
 現代まで、様々なドラマの架け橋となった「電話」が、テクノロジーの進んだ世界で、また人々を繋いでいることをとても嬉しく思います。
 人々の時間に時差が生じるという、描写の難しい設定が、こんなにも美しく、ドラマチックに書かれていて衝撃を受けました。現実世界とはかけはなれた世界に見えるかもしれませんが、人間とは案外、変われないものなのかもしれません。
 あの日、言えなかったこと、訊けなかったこと、見れたかもしれない景色、表情……。人々の「もし……」という想いは尽きないものですが、「もし、」そこに『時間共有サービス』があったのなら……? 受話器にIFを囁くとき、何かが起こるのかもしれません。
 これ以上語るのは野暮というものですね。SFに人間模様が柔らかに浮かぶ傑作を、皆様、ぜひ、読んでみてください。

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