時間差を埋めるのは、時間共有サービス。心の隙間を埋めるのは――。

時を乱される=心を乱されると同義のように感じられ
時間がずれるごとに、人と人の境界線までずれていくような。
そんな、どこか疎外感すら抱かせる不安な不穏な世界観が開始数行にして
ぐっと心を掴んで離しません。
ズレは溝になり、差が開き距離が開く。
それでも、時刻共有サービスによって、その細い細い糸を手繰りよせ
遥か彼方にいる、相川との糸電話。その糸は時間や年月の壁程度では
絶対に切れない縁で撚られているのでしょう。
黒電話のコードを指で弄ぶように、互いの指に絡ませた赤い糸で。

人々の時間のズレを前提とした、システマチックなダイヤの構築は
この世界観ならではですね。
夜空のアルバムに煌々ときらめく思い出を指でなぞれば、淡い記憶と
はじける炭酸の刺激。
一つだけ割れた卵が、後の衝撃的な事実を暗示しているようで
どうか心までは割れないようにと、ひたすら祈るばかりでした。

ピンと張られた糸電話。最初は、絶対に切れないと信じていましたが
D領域という絶望を前にしては、あまりにも無力……。
そして、音もなくぷつんと切れる赤い糸……。
音もなくぷつん なんて矛盾を孕んでいても
きっとこのズレに違和感は訪れないと思います。

……と思っていたら、希望の光が差してきた……。
一度切れてしまった結び目は、その長さこそ短くなれど
結び目の分だけより強固なものとなって。さらに今回は
たくさんの時間軸の香織が撚られた糸だけに、その想いも
載せた、まるで綱のような運命の糸。……これも矛盾して、ズレていますが
そんなことは、些事でしょう。誰かが匙を投げても、これは二人の問題なのですから。

読み終えた時、胸がすくような感覚と、果てない宇宙旅行を終えて
地球に戻ってきて、時差というズレに狼狽しているような気持ちになりました。
今こそ、時間共有サービスを使う時かもしれません。

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