作品の主人公は、二十三世紀を経た遠い未来に生きる九十四歳。
このレビューのキャッチコピーに拝借したのは、この主人公が強い憧れを抱いている、とある名作ファンタジーの登場人物の名台詞のひとつです。
作中現在、過去の伝染病蔓延により人口を大幅に減らした人類は、対人接触をできる限り避け、酒や煙草といった健康被害の危険がある品物を徹底的に禁じています。平均年齢は二百歳を超え、他者との接触時にはアバターを介するようになった結果、醜く老いた人間の姿を目にすることはなくなりました。けれど主人公はそんな世界に対して不満を持ち、同時に、誰にも言えない「夢」を抱いています。
キレイなものだけで満たされた世界を、「悪くない」とは思えなかった主人公が、最後に選んだ道は?
泥臭い雰囲気とSFが見事にマッチした世界感と、どこか哀愁を帯びた語り口、何より、主人公の生き様が最高に格好いい物語です。