それでも地球は止まっていく。

「地球の自転が止まったらどうなるのか?」。この小学生でも考えそうな素朴な疑問に対する答えは、ほんの少し調べてみれば恐らく、いくらでも参考資料が出てくることでしょう。ですが、自転が止まった地球上の「人間社会」で何が起こるのかを予想するものは、きっと少ないのではないでしょうか。

 前述の疑問が現実のものになり、「地球の自転が遠からず止まってしまう」世界がこの物語のベース。まるで物理・天文学の専門家が淡々と述べているかのような具体的で緻密な設定・説明にも舌を巻きますが、それ以上に驚嘆させられたのは、自転停止問題が露見してからの各国の対応の生々しさです。研究所や特別委員会の設置に、標準時間の設定、対策案の情報流出……あまりに「ありそう」な事態が続々と巻き起こり、筆者の視点の鋭さに畏敬の念すら抱きました。

 さらに賞賛すべきは、卓越した盤石な設定だけに満足せず、この舞台上で展開するヒューマンドラマをも一万字の中でしっかりと描ききっていること。
 こんな異常事態に放り出されても、きっと人類はしぶとく力強く生きていくのだろうと思わせてくれる、壮大な傑作SFでした。

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