妖精の軌跡と奇跡を追う。これは、彼らが大切なものを守るための旅。

 主人公の義希は、ビビリでおバカで、腕っ節も頼りなく、女の子が大好きな軟弱者の愛され系ナンパマシン。
 行方不明の父親を探すために旅へ出た彼は、最初に辿り着いた街で有理子・沢也の二人に出会い、そこから大きな事件に巻き込まれていきます。
 旅を進めて行くにつれて増えていくのは、一癖も二癖もある仲間たちと、彼らを取り巻く「謎」の数々。その謎を解き明かしていくうちに、この物語の全貌が少しずつ明らかになっていき、それと同時に、登場人物たちの覚悟や想い、絆が強くなっていく、とても壮大な冒険譚です。

 剣に魔法、妖精にドラゴンという王道ファンタジー要素満載でありながら、登場人物は漢字表記の和名だったり、現代風の道具や機械、ファッションがごく自然に出てきたりと、「王道ファンタジーの定義など取っ払ってしまえ!」と言わんばかりの世界感が斬新です。そこに不思議と違和感は無く、それどころかファンタジーらしからぬ現代日本風の設定の数々のおかげで、「横文字のキャラ名が覚えられない」といったファンタジーあるある障壁をすんなり突破して物語の中に没入できます。

 ストーリーはゆるめの日常コメディパートとシリアスなパートがバランスよく散りばめられており、前者では大学サークルのような賑やかで楽しい雰囲気を、後者では手に汗握るアクションや、胸にズシンと響く重厚なエピソードを存分に堪能できる、実に贅沢な構成です。

 シリーズ最大の持ち味は、イキイキとして個性的な登場人物たち。最終的にメインとなる九人の仲間たちはもちろん、旅の途中で彼らに協力してくれる人々も、敵対する人たちも、人ならざる者たちも、善悪を問わずそれぞれに信念があり、大変に魅力的です。メインキャラクターたちが織りなす人間模様も面白く、特にじれったい恋愛模様は、少女漫画顔負けの胸キュン展開を見せてくれます。

 彼らと対峙する「組織」の目的は? 妖精はなぜ絶滅してしまったのか? 九人それぞれの過去と思惑は? そして、「アネモネ」の謎を解く鍵は?
 八十万字に迫る超大作。ぜひじっくりと読み込んで、あなたのお気に入りのキャラクターとともに、それらの謎の答えを見つけ出してください。