あめつち

 外海そとうみを臨む見晴らしの良い高台に、波留はるは葬られた。

 勇凪いさなは花を手向け、墓標に寄り添い、雄大な景色を眺める。群青の海は遥か彼方まで広がり、空との境い目に藤色の雲が引きこまれていくようだ。延々と続く岩壁は落陽に照らされ金色こんじきに輝き、その足元では途切れることなく荒波が押し寄せ砕ける。馬手めての海では沈む夕日へ向けて光の道が続いていた。その煌めきに目を細め、少年は最愛の家族と過ごした幸せな日々を思い出す。

「今日も海が綺麗ですよ、姉さま」

 姉は、彼にとって世界そのものだった。また、姉からしても弟は特別な存在だった。そこにあるのが純粋な家族愛のみだったとしても、仲睦まじい姿に周囲はおぞましさすらいだき噂した。前世からのえにしで結ばれているのではないか、と。それでもなお彼と彼女は互いを慈しみ、あいす。二人だけで完結しうる関係性。不離一体。そして、一蓮托生。

 少年の首筋に、つうっと一筋の鮮血が流れた。痣から溢れ出た血は止まることなく、一滴、また一滴としたたり落ちる。

 双子とは、体は二つでも、限りなく一つに近い二つだ。彼が片割れの死を感じたとき、己もまた遠からず死ぬのであろうという予感はあった。今に至るまで執念と愛だけで命を長らえさせていたにすぎない。

 今生ですべきことは十全に為した。骨肉を取り戻した彼は、それがどんなに変わり果てた姿だとしても黄泉路を逃げかえりはしない。共に死の国へ旅立つ覚悟など、とうの昔にできていた。

「姉さま……。おれも今……、そちらへ参ります」


 残照の中に烈々とした波音だけが響く。

 墓前には首が転がっていた。音もなく、ころりと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

焦がれ首 十余一 @0hm1t0y01

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説