魔王VS勇者
人類の大軍を率いることとなった僕……そうなってしまった僕であるが、実際のところは本当に他を先導するわけではない。
どこまでも行っても貴族社会はメンツの世界なのだ。
いくら勇者であっても貴族でも何でもない僕が人類の軍を本当に率いるのもそれはそれで問題があり、現状であれば僕はただのお飾り。
神輿として讃えられるだけの存在であった。
「ほっと」
そんな存在であり、大した責任もない僕は割と自由行動が許されていた。
「ちょっ!?ノア様っ!?」
魔王の宣戦布告通り。
かねてより指定されていた通りの場所に魔族の軍勢が陣を張るその対面上にせっせと僕の代わりに軍を率いている将軍たちが人類側の軍勢の陣をせっせち作っている中、僕はそれを無視して一人。
魔族の軍勢の方に向かっていく。
「しーっ、止めても無駄だよ?」
一人で向かっていこうとする僕を止めようと前線の兵士たちが反射的に声をかけて来るが、それを嗜めて僕は先へと進んでいく。
それに対して、魔族の軍勢たちが一糸乱れぬ動きで陣形を変え、陣の中心に道を作る。
そして、ピカピカの全身鎧に実を包んだ騎士たちが掲げる魔王が作りし遥か古代が国の国旗がその道を飾る。
「……」
そんな道を一人の人物が悠然とした足取りで進む。
頭より伸びる二本の角に人よりも長い耳、背中より広がる小さな翼にその身を守る黒装束。
まるで死人であるかのように真っ白な肌に真っ白な髪、そんな真っ白なキャンパスの上には宝石のように輝く蒼の瞳が輝いている。
「どうも、初めまして。魔王様」
互いの陣の間。
そこにただ二人で向い合って立つ僕と魔王。
魔王は女性であり、その背丈としては女性の平均と言って良く、普通の男よりは背丈のほどは小さい。
だが、僕の背丈が飛びぬけて小さいせいで魔王が僕を見下ろし、僕が魔王を見上げる構図となってしまう……まぁ、立場的にも実力的にも相手の方が上だし仕方ないか。それ相応かも。
「えぇ、初めまして。小さな勇者くん」
そのように向かい合う僕たちは笑顔で挨拶を交わす。
「「……ッ」」
そして、次の瞬間には聖剣と魔剣が交差する。
「いきなり不意打ちは酷くない?」
「あら?先に剣を抜いたのはそちらではなくて?」
「えぇ?平和主義者な僕はいきなり剣を抜くことはしないよ」
勇者が勇者であることの証明となる聖剣を握る僕は魔王の手に握られている魔剣と鍔迫り合いを演じる。
「っと」
僕は聖剣の力のかけ方を変えて魔剣を受け流し、それに伴って態勢がわずかに崩れた魔王の腹へと右足を伸ばす。
「女性の腹をそう狙うものじゃないわよ?」
それを片足を上げることで防いだ魔王は僕の目の前で笑いながら告げる。
「それは役得だぁ。一杯汗かいて芳醇な香りを僕に届けてね?」
「普通にきしょいわ」
「かなしいぃ」
僕と魔王は互いに軽い近距離戦をこなしながら軽口を交わしていく。
「……っ」
魔王の振り下ろす魔剣をギリギリで回避して、隙を晒す魔王に向けて聖剣を振り下ろす。
だが、それを魔王は強引な身体能力で対処して見せる。
「うーん。力が足らぬなぁ」
技量は僕の方が上。
だが、純粋な身体能力であれば魔王の方が上であった。
「……これでも私もそこそこやると思っていたんだけどなぁ?」
「所詮はそこそこってことやな」
歩行法で距離感をバグらせ、魔王を翻弄しながら聖剣を振るい続ける。
これでも僕は前世でちゃんと爺ちゃんの運営していた剣術道場で戦い方を学んでいたのだ。神童とも称されていた僕はそこそこ剣の腕に自信があるのだ。
「……そこっ!」
そんなやり取りをしばらく続けた後。
ようやく僕に生まれた隙を狙って魔王が渾身の一振りを繰り出す。
「残念賞」
だが、それは宙を切る。
魔王は僕の罠にまんまとハマり、己の目の前でただ隙を曝したのだ。
「ぶっとべ」
これまで聖剣にすべての攻撃を頼っていた僕は先ほどまでと趣向を変えて魔法を発動。
火炎の龍で魔王を包み込む。
「……あら?もう魔法を使っちゃうかしら?」
「ラウンドツー」
僕の魔法を結界魔法で防ぎきった魔王に対して僕は笑みを浮かべながら返し、両手に魔力の輝きを宿すのだった。
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