一等級の魔物
魔の森に住まう魔物たちは凶悪無比ではあるが、その分倒した際の旨味も大きい。
「いやぁー!?一等級の魔物なんてむりぃ!?」
「おいおい!?これは流石にやべぇぞぉ!?」
「こ、これほどの危機は私の長い人生の中でも数えるほどですっ!?」
そんな魔の森で一つの冒険者パーティーが一体の一等級の魔物と激闘を繰り広げていた。
「わ、私が魔法で……ッ!」
逃げ惑う冒険者パーティーのあとを追う巨大な猪の怪物。
四本の足に背中から生えた百手がありとあらゆるものを破壊するというとんでもない魔物に何とか一矢報ろうと杖を持った少女が魔力を輝かせようとする。
「駄目です!」
だが、それを長き生の中で数多の経験を積んだハーフエルフたる少女が止める。
「魔法使いによる魔法の本懐は足止めではなく火力です!止まるのはここだと私ですッ!」
言葉を終えると共に跳躍。
百手を持つ巨猪の上空へと舞った少女は手にある魔剣を一振り。
魔剣より溢れる暴風が巨狼の足を一時的に止める。
「呆けるなッ!?魔法だァ!」
「ッ!りょ、了解!!!」
大剣を握る背の高い女が巨猪に斬りかかると同時に杖を握った少女は魔法の詠唱を始める。
「かてぇ!刃が、通りやがらねぇ!!!」
一振りで大岩を粉砕する大剣による一振りを真正面から食らった巨猪を前に背の高い女は表情を引き攣らせる。
『ぶるるぅ』
だが、その一撃は巨猪の意識を移した。
「私は古の盟主。風よ、我に力を」
自分から意識が外れたことを確認したハーフエルフの少女は世界に向けて詠唱を開始する。
祈るのようにして己の胸の前に置いた両手の平に風が集まり、一つの風球が出来上がり始める。
「発散しろ」
ハーフエルフの少女の手の中にあった風が荒れ狂いながら球となり、巨猪を閉じ込める檻となる。
『ぶるぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ!!!』
ハーフエルフであり、長き時を研鑽に費やしてきた少女の魔法を巨猪は咆哮一つで打ち破り、自由を取り戻す。
「プグナッ!」
「わかりました!」
だが、そんな光景を前にしても彼女たちは揺るがない。
「いくぞ、おらぁぁぁぁぁ!!!」
ハーフエルフの少女と杖を持った少女が共に立ったのを横目で確認した背の高い女は大剣を持って単独で突っ込む。
「ラァァァァァアアアアアアアアアアアア!!!」
気合一閃。
渾身の力を込めて大剣を振るい、今まさに突進を開始しようとしていた巨猪の出鼻を挫く。
「離脱したぜぇ!」
躊躇なく大剣を手放した背の高い女は慌ててその場を離脱する。
「しっかり支えてね!プグナ!」
「了解です!クイスタ!」
魔力が唸り、少女が手に持つ杖の先端についた宝石が輝く。
「薙ぎ払えッ!『タルナーダカルマ』」
この世界に蠢くすべての風が一つとなり、巨大な竜巻となる。
刃となって牙をすべてに牙を剥くその風の怪物は巨猪を完全に包み込み、容赦なく襲い掛かる。
「追加だぜ!」
二人の少女が魔法の制御に細心の注意を払っている中、背の高い女は自分が持っていたポーチの中にある小さな鉄の破片をすべてぶちまけて竜巻に混ぜる。
一つの戦場において、戦略をひっくり返すような自分たちの持つ最高火力たる魔法をぶつけた彼女たち。
『ぶるぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ!!』
だが、敵は止まらない。
巨猪はその身に血を一つ流すことすらなくその威容をそのままとして竜巻を散らす。
「まぁ、流石に無理か」
彼女たちがすべてを賭してもなお、一切動じることのなかった怪物が突如として現れた少年のデコピン一つでその身を半壊される。
「うげ、思ったよりも硬かった。前は完全に消し飛ばせたと思ったんだけど……返り血ついた、ばっち」
「……嘘だぁ」
「……こんな違うのか?」
「え、えぇ……?」
爆速で済ませてしまった少年を見て少女たちは頬を引き攣らせながら、声を震わせる。
「んなぁ?……こいつ、超級に片足突っ込んでいるやんけ、みんな下がって」
だが、そんな少女たちへの返答をするよりも前に少年は先ほど倒したはずの魔物の異変を感じ取り、少女たちを自分の後ろへと庇う。
「……めんど」
血肉からもぞもぞと再生し、歪んだ肉の塊となった巨猪であったものがその体を変形させ、一つの巨大な龍へとその身を変える。
「ただの模造品が」
少年が手の平を合わせ、そのうちで魔力を風へと変えて世界に顕現させる。
『ガァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
「断て」
少年の手の内に広がる無謬の風が刃となって世界を走り、目の前の存在を断つ。
『……ァァァァアアアアアアアアアアアアアア』
少年の二撃目。
技を使っての一撃を喰らった超級にさえ届いたであろう一等級の中でも頂点に達するその魔物はその身を光へと変え、この世界から消えてなくなるのだった。
「簡単洗浄。あんなきもいやつの使い道なんて限られてあれで良いでしょ」
己に降りかかった返り血までもが光となって消えていく現状に対して満足げに頷いた少年、勇者たるその少年は満足げに頷くのだった。
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