第三章

勇者の一歩

 無事と言って良いのかはわからないが、何とか罪を被りながらも貴族に至る切符を手にした僕は第三王女の屋敷へと戻ってきていた。


「もう!何を考えているんですか!いきなり危険すぎますし、事前にもう少しくらい私に相談があっても良かったじゃないですか!」


 そんな僕は屋敷に帰ってくると共にプレア様から説教させていた。


「仕方なかったんですよ。時間がなくてですね。タイミング的にもうヤバかったんですよ」


「……全部仕組んでいたんですか?こうなることまですべて」

 

 僕の言葉を聞いたプレア様は少しばかり不満げにしながら口を開く。

 彼女が言いたいのは潜入任務から魔王の復活宣言に合わせた勇者宣言まで、すべてが僕の想定通りであったのか?という疑問だろう。

 まぁ、これだけの神タイミングであればそう思うのも無理はないだろう。


「いや?そんなことはしていないんですよ……これに関してはた本当にたまたまです。別に僕は魔王の復活宣言に対して何もするつもりがなかったですしね」


 だが、僕はそんなプレア様の言葉を否定する。


「えっ?そうなんですか?」


「そうですよ」


 魔王の復活宣言の日時は当然、ゲーム知識で元から持っていたというものあるが、それと同時に勘としてこのタイミングに来るな、っというのもなんとなくで理解していた……だが、僕が目指すのは英雄ではない。わかるからと言って何かするつもりは本当になかったのだ。

 

 という意味では本当にご都合主義もかくやと言うタイミングであった。

 もう少し領地の異変を知らせる手紙が僕の元に届くのが遅かったらもう魔王復活の宣言のタイミングに間に合わなかっただろう。

 神に愛されたとしか思えない采配であった。


「はぁー、僕は戦闘なんて嫌いなのに」


 本当は部下をこき使って自分は高みの見物を決め込んでいたいのに。

 僕はまぁまぁぶっ飛んでいる自覚はあるが、それでもれっきとした現代日本人なのである物騒な戦闘なんて御免である。


「えっ……?ノア様はちぎっては投げ、ちぎっては投げ、無双するのが好きなタイプの人ではないんですか?」


「僕はそんなひどい奴じゃないし、戦闘は嫌いですよ。汚れます」


「……あぁ」

 

 一体僕はどれだけこき使われるのだろうか……考えるだけでも億劫である。


「……あぁ、戦闘が近いです」

 

 これまでずっとソファの上に寝っ転がってだらけていた僕は体を持ち上げてぽつりとつぶやく。


「えっ?」


「相手は直ぐに動くと思いますよ。魔王の復活宣言なんてやる馬鹿ですから。自分の強さを誇示し、勇者など脆弱であるということを示すために今すぐにでも攻撃を仕掛けて人類を混乱の渦に叩き落とそうとするでしょう」


 ゲーム上における魔王の性格を考えれば僕がどれほどの者であるかを図るためにすぐにでも先遣隊をぶつけてきそうだし、戦略的に考えてもそれが良いだろう。

 勇者を旗印として人類が一致団結するよりも前に叩いた方が効果的である。


「……はぁー、本当に面倒。出来るだけ簡単な相手だと良いんですけど」


「私に何かできることはありますか?」


「別にプレア様を軽んじているわけじゃないけど、今のプレア様なら足手まといですね。単純にそもそも移動についてこれないんじゃないでしょうか」


「……今はまだ、ですか?」


「そうですね。今はまだ、です。プレア様は僕の代わりに活躍してくれるほどの強者になってくれるって信じていますよ?僕は」


「ふふっ」

 

 僕の言葉を聞いたプレア様が思わずと言った形で笑みを漏らす。


「私なんかにそこまで期待を寄せてくれるのはノア様くらいですよ」


「なんか、と自分を下げるほどがないほどにプレア様は才能に溢れていますよ」

 

 プレア様はゲームでも主人公の右腕として活躍するのだ。ここでもしっかりと活躍してもらわないと困る。本当に困る。


「……えぇ、本当にありがとうございます。おかげで勇気がもらえました。私ももっと努力してノアを支えられように頑張りますね」


「僕は割と早熟なタイプですから。プレア様であれば割とすぐに追いつけると思いますよ」

 

 まぁ、早熟タイプと言っても比較的に早熟なだけで普通に晩成になってもしっかりと成長するんだけど。

 

「ふふっ。そうなれるように頑張りますね」


「うん。頑張ってくれると嬉しい、僕の負担を減らせるようにお願いしたいですね」


「えぇ、どうせ私に公務なんてありませんから。己の力だけでノア様を支えらえるようにしますよ」


「頼りにしている……っと、動いたな」

 

 流石にこの星すべてを囲むのは無理だったけど、この大陸くらいはまるっと索敵可能な僕は自分の索敵包囲網に入っている魔王軍の一部が行動を始めたことを察知する。


「……あまり広範囲察知は脳に負荷がかかるから好きじゃないんだけど、そんなことも言ってられないよねぇ」

 

 あれだけの啖呵を切っておいて先遣隊如きに被害者を出すなんて情けない。


「来い、聖剣」

 

 僕は自分と契約し、どんなタイミングであっても呼べば手元に現れる聖剣を呼ぶ。

 嫌というほどにしっくりくる聖剣を握った僕は風魔法で自分の側にあった窓を開けて外へと踊り出る。


「それじゃあ、プレア様。行ってきます!」


「はい、行ってらっしゃいませ」

 

 プレア様からの言葉を受けた僕は魔法を使って空を音速を遥かに超える速度で駆け抜けていくのだった。

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