ゲームの主人公に転生したけど悪逆非道な悪役貴族を目指したい!~悪役らしく女を囲って貴族の権力を振りかざしているのに何故か史上最高の英雄として崇められたあげくにヒロインたちが勝手に寄ってくるんですが~

リヒト

第一章

ゲームの主人公の決意

 むかしむかしあるところにまだ八歳になったばかりの少年が住んでおった。

 空で輝く二つの太陽の下、スラムで暮らす少年は酷く貧乏であった。

 今日食べるものがなければゴミ箱を漁って食料を見つけ出し、明日食べるものがなければとりあえず寝て明日考えるそんな少年であった。

 そんな少年には一つだけ苦手なものがあった。


 貧乏である。


 普通に考えて生ごみを食べたりそこらへんに生えている草やら地面を這いずりまわる小動物や虫を食べて腹を満たすような生活はまっぴらごめんなのである。

 少年は貧乏が大嫌いでした。

 貧乏が嫌で嫌でしょうがない少年は言いました。


「そうだ、貴族になろう」


「いきなり何を言っているの?」

 

 貴族になれば毎日腹いっぱいのご飯を食べ、冷たく硬い地面ではなく温かくふかふかなベッドで眠り、己を見下してくる愚民どもをこき使うことが出来る。

 まさに夢のような生活である。

 

「僕は貴族になるぞォー!!!」


 夢のような生活を手にするために努力し、決意するのは当然であると少年は、僕は思うのだよ、諸君。


「だから何を言っているの?」

 

 元気よく告げる僕に対して隣にいる一人の少女が冷静に冷や水を浴びせるかのようにツッコミを入れてくる。


「うるさいなぁ。僕は一世一代の覚悟を決めたところなんだよ」

 

 肩ほどまでに伸びた黒髪に泣きぼくろが特徴的な僕よりも七歳年上な少女であり、没落した貴族家であるラフレシア伯爵家の一人娘でもあるアリア・ラフレシアへと視線を送った僕は彼女に向かって不満げな態度で口を開く。


「そんな覚悟を決めている暇があったら現状をなんとかする術を考えてくれない?」

 

 そんな僕に対してアリアは何処か呆れたような態度で言葉を返してくる。


「その解決策が僕の言葉なんだよ!」


「そんな夢じゃなくて現実的なものよ!具体的には歴史を見ても起こることじゃない寒波が押し寄せてくる中、どう生き抜くかよ!」

 

「……」

 

 僕はアリアの言葉にそっと視線を逸らす。

 今、僕とアリアは共に抱き合って過ごしている。

 これは別に熱々なカップルでいちゃラブするために抱き合っているわけでは決してなく、こうしていないと死んでしまうからだ……寒さで。

 

 現在、僕たちが暮らしているミンスク子爵家が治めている街であるオルストイ王国のノストル街には歴史を振りかえっても前例のない大寒波が押し寄せてきているのだ。

 暖かな服も布団もなく、雨風を防ぐ家すらもない僕とアリアはこうして抱き合ってでもないと凍え死んでしまうのだ。


「うっるさぁーい!どんな状況でも僕たち二人なら生き抜けるさ!そんなことより未来への希望だよ!未来への希望がないと僕たちは生きることも出来ないんだよ!」


「……そのための貴族家であると?」


「そうに決まっているしん!」


「……しん?」


「そこは良いんだよ。大事なのは僕たちが貴族になることだよ!むしろそこ以外は些事と言って良い!」


「全然些事じゃないけどね?今私たちの前にある問題は」


「いや、僕が貴族になることと比べれば些事だよ」


「はぁー、実際に出来る現実的な目標を掲げてくれない?私たちが……貴族になるなんて無理なのよ」


「いや、出来るし!」


 そう、僕が貴族になるのなんて朝飯前である。

 え?何故そんな風に断言できるのかって?そりゃ僕が前世は現代日本で暮らしていた転生者であり、なおかつこの世界が前世でプレイしたゲーム『Naraku』の世界であるということを知っているからだ。

 

 それに加えて今世の僕はゲーム『Naraku』の主人公であるノアだからだ。

 異世界転生したかと思いきやスラム出身の餓鬼で人生に絶望しながら生きていく中で割と悲惨な生まれである『Naraku』の主人公であると分かったときには今流行りの悪役じゃなくて主人公なの?と考えたものではあるが、一応主人公であるからに高スペック。

 魔法もある世界でゲームの主人公として活躍出来るくらいにはチート性能なこの肉体があればスラム出身でありながら貴族になることも決して不可能ではない。


「聞け!アリアよ!」


「はいはい、聞いているわよ」


「僕は酒池肉林を謳歌する悪役貴族になるぞぉー!」


 誰が品行方正な主人公さまになってやるものか!

 せっかく転生したんだ!自分の好きなように、欲望のままに生きてやる!

 目指せ、悪役貴族!今はもうゲームの主人公に転生するよりも悪役貴族に転生するほうがメジャー、僕が悪役貴族を目指すのは至極当然なのだ!


「ふっはっはっはっはっは!!!」

 

 僕はアリアの腕の中で高笑いをあげ、天にまで己が決意を届かせる。 


「……仮にも女の子と抱き合っている状況で肉林とかいうかしら?後、悪役って何よ、それに年相応の言動しなさいよ。なんで八歳の少年が酒池肉林を夢に見ているのよ。未だ酒を飲んだこともなければ精通もしていないじゃない」

 

 それに対してアリアはぶつぶつと僕の耳元で呟き……おい、待てや。僕が精通していないことは禁句だぞ。前世じゃ高校生であった僕としてはなんか精通していないとか言われると男として否定される気分になるんだよ……しょうがないじゃないか!まだ年なんだもん!勃たないよ!そりゃ!

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