天変地異
勇者たる僕と魔王の戦い。
それは徐々にエスカレートしていっていた。
「……わかっていたことではあるけど───」
地面を風を纏って駆け抜ける僕。
「はっはっは!!!逃げろ!逃げろ!」
そんな僕を狙って遥か天空から魔法でもって大地を操る魔王の意思によって大地が割れ、溶岩が僕を狙って溢れ出てくる。
「ちっ!」
迫りくる溶岩に水をぶつけて水蒸気爆発を起こして自分のいる場をすべて他から見えぬようにする僕は爆発の中心で手を構える。
「嵐雷磁砲」
空を自由に支配する魔王に向けて僕は数十のレーザーを向ける。
「無駄だね」
だが、それらはすべて魔王の放つ大量の流星群にかき消され、逆に僕は流星群の勢いに呑まれる。
「……ぐぅ」
「ほらほら!」
幾つもの小さな流星群から次は一つの大きな塊。
溶岩という概念そのものが一つとなったかのような巨大な隕石が僕に向けられる。
それは僕の貼っていた結界を容易に破壊し、その場の地形を大きく変化させる。
───火力が違い過ぎるッ!!!
圧倒的な魔王の火力を前に歯噛みする僕は聖剣で隕石をダメージを受けながらも破壊する。
「空は手にしたぞ!」
あえて攻撃を喰らうことで魔王より植え付けらえた空への憧れを溶かした僕は空へと舞い上がり、魔王と目線を同じくとする。
「ほう?」
空へと上がった僕を狙って突如として起き上がった大地の巨人が腕を伸ばしてくる。
「遅い」
僕はその腕を聖剣を振るって細切れとした後に魔法を発動。
「八岐大蛇」
魔法によって地面より沸き上がる現代の高層ビルほどの強大さを持つ300mを超える八首の龍頭がいともたやすく大地の巨人を呑み込んだ後に魔王へと迫っていく。
「この程度か?」
僕の使える魔法の中でもかなり高位の魔法を容易に引きちぎる魔王。
「まだまだッ!」
そんな光景を前にしても僕は止まらない。
僕たちの激闘によって荒れ果てた地面。
宙を舞う木や土、岩を集めて一つの巨大な塊を作った僕はそれを魔法で一つ上の何かへと昇華させて魔王にぶつける。
「『アマテラス』」
当たり前のように僕の魔法を撃ちゆぶった魔法にぶつけるのは更なる魔法。
己の両の手の内で陽光に揺らめく小さな火球を魔法へと飛ばす。
「───摩天」
魔王以外であれば容易に飲み干す僕の火球は魔王より放たれた『黒』に飲み込まれる。
「ぐふっ」
そして、火球を呑み込んでもなお止まることのない『黒』は僕の腹を貫く。
「……かっふ、げほっ、げっほ」
魔王の熱によってすべての水分が干上がった乾いた大地へと僕は己の血を垂れ流す。
「舐めるなぁッ!!!」
腹を貫かれ、口から血を大量に吹き出し、それでもなお止まることのない僕は両手を合わせて魔法によって天候を変える。
空は暗黒へと覆われ、雷嵐が吹き荒れ、巨大な竜巻が起こす。
「この程度が今さら何になると?」
「ただの気分転換だよ」
この場の地面に染みこんでいた水分を元として作られた雲が流す少しばかり赤い雨に打たれる僕は小さく吐き捨てながら聖剣を構えて何の予備動作もなく向けられた数億を超える光線をすべて弾く。
「それにしても素晴らしい最盛期の私を相手にここまで対抗出来たのは貴方が初めてよ。かつての勇者でさえ数多の魔法使いによって支援を受け、幾度の抵抗の中で私へとデバフをかけ続け、本調子からほど遠い位置に追いやった状態でなおかつ数万という捨て駒をぶつけて消耗させたのちに当時の仲間である五人がかりで挑み、辛くも不完全な封印を施すだけで精いっぱいであった。誇れ、お前は強いよ、よくも落ちた人間たちの中でここまでの強さを維持し、私の前に来たよ」
魔王はちらりと下で僕の結界によってその身を守られている人類側の軍勢へと視線を送った後に僕の方へと視線を戻して言葉を終える。
「お前を完全に倒した後で存分に誇ってやる」
それに対する僕の声は簡潔だ。
「ふふふ。良いね。凄まじい自信だ」
常人どころか洗練された一流の暗殺者であっても意識を奪えるような僕より発せられる強烈な殺気を魔王は笑顔で受け流す。
「だが、それは無理だ……そろそろ終わらせるとしようか」
魔王は手の中にあった魔剣を異空間へと仕舞い、その代わりとして杖を引き抜く。
「お前を倒すにはすべてを開示してやる必要があるようだ……行くよ?」
魔王の手の中で輝きを放つ一つの杖。
「……ッ!」
杖を持った魔王より時空を歪めるほどの魔力が溢れ出したタイミングで僕は弾かれたように空を駆け抜け、魔王への突撃を開始するのだった。
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