街道を作ろう
「一体何やねん、ここは。あんな心地のええ風呂なんて初めてだし、そもそも誰でも入れるお風呂が当たり前のようにあるんや」
ほくほくの体をぶかぶかの服で包み、顔の半分を狐の耳が生えた大きなフードで隠す女商人たるアレマが先ほど入ったばかりの温泉の感想を漏らす。
「……ここの村人たち全員が綺麗なのがわかった気がします。男でも普通に良い匂いですし……うぅ、さっきまでの私は女じゃなかったんですねぇ」
それに同意するとともに女としての自信を喪失させている彼女が。
短く揃えられた銀髪に痛々しく残る片目を覆う火傷跡、残った金色の隻眼が輝く褐色の美しい相貌を持つ彼女こそが『森の風』のリーダーであるプグナだ。
ハーフエルフ特有の少し長い耳がチャームポイントであり、長き時代を生きる中で学んだ魔法と幼き体を駆使して戦う魔法剣士である彼女は冒険者たちの中でも腕利きの実力者である。
「和服ここだけ飽和しているよ。なんでみんな和服を四、五着持っているの……私も二着目欲しいよ」
そんなお風呂についての感想を述べる二人に対してそれよりも鮮烈であった和服について語る腰まで伸びる赤髪の少女は森の風の遠距離攻撃を担当するクイスタだ。
「間違いないな。俺ちょっとこの和服だけは欲しい」
それに圧倒的な身長に六つに割れた強靭な腹筋を持った短髪の黒髪に鮮血のように赤い瞳を持った女性、モノマキアが同意する。
彼女は森の風の頼れる最前線を張る剣士であり、大剣を振るうその姿は圧巻で
「んー、ちゃんと満喫してくれているようで何より」
温泉で身を清め、三者全員が和服を身に纏っている。
アリマもお風呂とは別に持ってきたすべての商品と引き換えに少しだけ色のつけられた代金を貰ってほくほくそうである。
「おっ、うちで暮らす?アレマならともかく三人であれば受け入れるよ?戦える人材は不足しているからね」
「う、うちはともかく!?」
僕の言葉にアレマが動揺の声を上げるもそれを無視して三人への言葉を続ける。
「辺境も辺境。出てくる魔物もとんでもない奴らでここに冒険者ギルドが出来るとは思えないが……それでも冒険者三人を僕が用心棒という形で雇うのは容易い。やって欲しいこともあるしね」
「むっ……どうしましょうか」
僕の言葉を受けてプグナが真剣に悩み始める。
「私はここに住みたいわよ?」
「いや、流石に決めるのは時期尚早じゃねぇか?」
「別に決断は今する必要はないよ。返答はいつでも良いから」
「じゃあ、ちょっと悩ませてもらいますね。ちなみに私たちにやって欲しいことって何でしょう?」
「あぁ、護衛だよ。ちょっとこの村に来るための道を作ろうと思っていてね」
僕はプグナの言葉に軽い口調で返答するのだった。
■■■■■
街道を引く。
それはかなり難易度の高い工事であった。
「ほんまに街道を引くなんて出来るん?」
最近、建てるものがなくなったせいで暇になっている男たちがせっせと慣れた手付きで木を伐採し、地面をならして石を並べていく。
そんな様子を僕と一緒に傍で監視しているアレマが疑問の声を上げる。
「問題ないはずだよ。魔の森は縄張り意識が高いからね。わざわざ開墾してある場所には近づこうとしないはずだよ」
それに対する僕の返答はだいぶふわっとしたものであった。
魔の森に生息する魔物は縄張り意識が強いためあまり移動することがなく、既に敷設する街道のエリアを縄張りとしていた魔物は全部駆除済みでこのエリアの縄張りとする魔物はいない。
いくら魔物が人間への強い殺気を生まれながらに持っているとはいえ、その性質を見せるのは人間と直接相対したときだけであり、問題はないはず。
というのが僕の論理ではあるし、実際に魔物による被害はそんなに出ないと思う。
「せやけど、その安全性は絶対ちゃうんやろう?絶対があれへんちゅうことくらいわかってるけど、ごっつ分の悪い賭けのような……」
「それでも一定数の商人は来るだろう?道がないときにも来る阿保もいたくらいだし」
「うっ……」
僕の言葉を受けてアレマが言葉を詰まらせる。
「何も移民を集めようとしているわけではない。雇用の確保と行商人の確保が目的。だからこれで良いんだよ」
森の風が護衛につく中、せっせと道づくりが行われる様子を僕はアレマと一緒にあとしばらく見続けているのだった。
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