第7話 ムラサキカガミ

「いやでも、だって、それは先生が例外だっただけかもしれないじゃないですか…私の場合だったら、本当にムラサキカガミの呪いにかかっちゃうかも…」

 俯く中島の意見は確かに同意できる。もし自分がモノノ怪的な存在だったら、ハッピーな気持ちで「ムラサキカガミ」を唱えている変人には近づきたくない。


「それに、もし死ななくても、不幸になるとか、結婚できなくなるとかも言われてますよね?」

「詳しいねぇ!中島さんは、もはやムラサキカガミオタクと言っても過言じゃないよ」

 一条先生は、やけにムラサキカガミに思い入れがあるのか感情が高ぶったように、キャッキャしている。しかし、本気で悩んでいる人間を前にしてその態度は…と考えている間に後藤先輩が大股で近寄り、一条先生の腕を後ろで縛り上げた。

「先生?発言には気を付けてください、先生のせいでミステリーサークルが廃部になったらどうするんですか?」


 こんなにも怖い上目遣いは今まで見たことがない。

 一条先生も「あ、はい。」と急にしおれたように大人しくなっている。わざとらしい咳払いをした後、一条先生は中島の前に座り指をピンと立てた。


「でも大丈夫、ムラサキカガミは他の都市伝説と違って、大きく違う点がある。」

「なんですか?」

「それは、呪いをはねのける言葉が存在することだ。」

「呪いをはねのける…?」


 一条先生はノートパソコンを開き、何か検索をしながら話をつづけた。


「そもそもムラサキカガミという言葉の始まりは、平成4年に発売された雑誌で、何やらムラサキカガミという言葉が小学生を中心に流行っているという特集で取り上げられたんだ。」

「意外と最近なんですね。」

「そして、そこにムラサキカガミの呪いを跳ねのける解除の言葉が記載されてあった。それは『水色の鏡』と『白い水晶玉』だ。」

 一条先生は当時の雑誌のページをノートパソコンで俺らに見せた。


「まぁただ、水色の"鏡"だと、一色間違えれば無意味になってしまうから、もし二十歳になる瞬間心細かったら『白い水晶玉』のことを考えるといいんじゃないかな?」

「ま、まぁそれだったら…」

 中島は先ほどよりも、少し元気そうには見えるがあまり納得がいっていないような表情をしている。


「じゃあさ!もしなんか異変が起きたら、千景くんに電話したら?」

「は?」

 突然の理不尽な提案に俺は飛び起きた。

「家どこ?」

 後藤先輩が身を乗り出して中島に家の場所を聞く。それは合コンでも無いであろう勢いだったため、中島は少しのけ反りながら「大学の近く…です」と答えた。

「好都合じゃん~!」

 後藤先輩が俺の先輩をベシベシと叩く。

「いや、その、中島が嫌じゃなかったら、別に俺は…いいけど。でもできること無いと思うんだよなぁ。」

「若者、心細い時は誰かが傍に居るだけで、こう…ぎゅっと温まるんだよ、分かる?分からないか。」

 後藤先輩が腕を組みながらまるで人生2週目のような発言をしている。


「寺下くん、なんかごめん…」

 手を合わせて謝る中島に俺は「いや、全然」と返したが、その時気づいた。


 もし異変が起きたら俺が駆けつけるってオチでこの話が終わりそうじゃないか?

 俺は慌てて一条先生に目でサインを送るが、謎にウィンクをされた。顔の整ったイケメンにウィンクされても全く心に響かないのは初めてだ。


「じゃあ、そういうことで!」

 後藤先輩が俺と中島の肩を叩く。明後日は徹夜の覚悟で起きることが確定した。

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この邂逅に才覚を。 月澤 慧 @tsukizawa_kei

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