エピローグ
かつて、宝石結晶病は不治の病として、世界の人口を半分以上に減らした。
この町は特に疾患者が多く、多大な被害者が出たという。世界の所々にそのような場所があり、そこには人間たちが宝石となって痕跡を残していた。
この町も例外なく、宝石がちらちらと残っている。
その中にぽつんと残っていたやたらと古く廃れた木箱は、それでも他のものよりもずっと原形を留めていた。
用心深く箱を開くと、手紙と宝石が収められている。手紙のほうは雨風にやられたのか。封から出すのも憚られるほどに劣化している。
それでなくとも、故人の手紙を勝手に開くのは悪趣味だ。それは宝石を確認するのとは、また別の話だった。
宝石結晶病はある日突然下火になり、患者数が激減している。今では数年に一人出るか否かということころだ。それは治療法が見つかったわけでも、予防法が見つかったわけでもない。
神だとかそうした目に見えない手のなすがままに振り回されただけだ。そんな病気の研究は細々と続いている。残された宝石を確認するのは、その一部だ。木箱を開いたのも、そのためだった。
その木箱に、手紙とともに封入されていたのは、ガラス玉のついたブックマークだ。磨かれている玉は美しいが、それよりもずっと目を惹く宝石が、隣に眠っている。
大切にされていたのであろうことが分かる手入れの仕方だった。歳月が表面に粗さを浮かび上がらせてはいるが、紅色の宝石は煌びやかだ。色味が深い。だが、隣にある鈍色の宝石もまた、美しかった。
二つはひとつの宝石であるかのように連なるように並んでいる。
家族や親友……恋人。はたしてどういった関係だろうか。こんなふうに近い場所に並んでいる宝石があるのを見ることは今までもあった。
だが、この二つほど結びついているものは滅多に見るものではない。こんなふうに残っているのも珍しい。一体どれほどの時間を共に過ごしたのだろう。
これは、軽挙に動かしていいものか。触れてはならないご神体のような厳かさも感じる。邪魔してはならない。このまま砕けてバラバラになろうとも、朽ちて本当にひとつになろうとも、どういった結末を迎えることになろうとも、他人が手を加えていいものではないはずだ。
これは無責任な願望でしかないのかもしれない。それでも。感じたことを無視することは到底できそうにもなかった。
ガラス玉のブックマークと手紙も元通りにして、木箱の蓋も閉じる。この二人がどうか共に過ごせますように。今日まで共に生きてきた二人に祈りを捧げて、その場を離れた。永遠という言葉があるのならば、と願わずにいられない。
かつりと何かが擦れる硬質な音が聞こえたような気がした。
実る石榴色の君 めぐむ @megumu
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