(漫画感想)ボクと魔女の時間 アラカワシン

●前置き

今回紹介する作品はボクと魔女の時間という漫画です。

連載雑誌はジャンプスクエアで、全6巻で完結しています。


ジャンプスクエアというのは現状漫画雑誌で一番の知名度と人気を誇る

週刊少年ジャンプの姉妹雑誌のような位置付けの漫画雑誌です。

同じジャンプでも少年ジャンプよりかなりマイナーな印象のある雑誌というイメージです。


そんな話はさておきとして作品のあらすじを説明します。


●作品の概要

今作の主人公、高校生の綴エンジ君はある日、交通事故にあって

瀕死の重傷を負ってしまいます。

というか、実質的には一度死んだといってもいいくらいですね。


その場に居合わせた白雨という少女に助けられ

一命を取り留めるエンジ。

白雨は魔女と呼ばれる天才科学者で特殊な手段を用いて

彼を治療したのだった。


その手段というのは彼の脳を実験体の特殊生物の体に

移植することで、結果としてエンジは化け物の体を得て

蘇生します。


しかし、その際の費用を補うために条件としてエンジは彼女が店長を務める

コーヒー店でバイトとして雇われることになります。


それを皮切りにエンジは非日常の世界に足を踏み入れることになり……


というのが大まかなあらすじです。



●作品の構成

この作品はギャグを多く交えたいわゆる日常モノで

それに能力バトルモノの要素が加えられているという感じですね。


白雨の営むコーヒー店は表向きはただのコーヒー店ですが

実は裏生物と書いてクリスと読む特殊な生物の保護などを役割とする

裏稼業の側面があります。


そんなコーヒー店、紅緋珈琲で裏生物絡みのトラブルなどを解決しつつ

エンジの物語が描かれていきます。


前述の事故後の手術によって、人間から人型のクリスになってしまった

エンジはどんなケガも瞬時に治ってしまうような規格外の再生能力と

人間離れした怪力を持つ超人です。


個人的には作品のネックになっているとも思うのですが

この強力な能力によって時に危険も伴う裏稼業も難なくこなして

いきます。


●要所要所のギャグが面白い

この作品の最大の長所はギャグの上手さにあると思います。

各話の物語を進めつつ、要所要所に挟まれるギャグが

いくつもの笑いどころを作ってくれるので

思わずクスリと笑ってしまいます。


全体的にコメディタッチな良い意味で肩の力を抜いたムードが

作品を包んでいるのがこの作品の個性なのかなと思いました。


あと主人公のエンジも適度に砕けた不真面目なところのあるキャラで

言動の面である意味では主人公らしい、只者ではない行動をする人物で

ギャグの上手さと相まって魅力ある主人公になっていた印象です。

といいつつ、しっかりと主人公らしい熱さを持っているのも尚良し。



●ギャグは良いが反面……

ギャグを交えた日常モノとしては面白い作品ですが

バトルモノとしてはどうかというと……

悪くはないんですが、パワー不足が否めない。

他作品、特に雑誌に連載していた漫画というところで

当時の同誌掲載作品よりバトルシーンが優れていたかというと

厳しいです。


理由の一つにエンジが再生能力を持った不死身に近い人間だと

いうことがあります。


それに関しては殺そうとしても殺せない。余程のことがない限り

死なない存在なので、戦闘においてどこか緊張感が生まれないんですよ。


加えて人間離れした身体能力があるせいで大抵の相手はまさに力押しで

対処できてしまう。そして単調なバトルに……

この条件の上でバトルを面白くするのは難しいと思うんですよね。


●バトル漫画としての強度の低さ

それからバトル漫画的な要素より、日常モノとしての要素が強い作品で

あるためにバトル漫画としての作りこみが浅くなっているという面も。


たとえば他の漫画でいうと呪術廻戦なんて、術式がどうこう領域が

どうこう死滅回遊のルールがどうこう、敵味方の思惑がどうこうと

えらい複雑じゃないですか。そりゃあバトルメインのバトル漫画だからさ。

しっかりそのための設定を作りこむワケですよ。


でもこの作品は、ゆるい日常モノがベースでギャグによる笑いがメインな

ところがあるし、力を割くところが違くて、そこがネックになってる気が

するんです。いや、ギャグ面白いけどね。



それでも日常モノとしては良かった

裏生物クリスにまつわる多様な物語の描き方、白雨や

友達の超能力少女の水田マリちゃん(カワイイ)内藤くん

煤竹くん、乱太郎とかカンクローさんとか、脇を固めるキャラクターたち。


ふざけた調子で笑いを誘いつつ、主人公らしい熱さも

持っている綴エンジ。


非日常の世界とに足を踏み入れた登場人物たちの日常が

学校生活などから描かれていく。



終盤白雨とエンジの出会いにまつわる秘密が明かされ

ボクと魔女の時間というタイトルを回収しつつ終幕へ。

冒頭のエンジが事故に遭いそして蘇生する場面は

コメディタッチに描かれてはいるものの

その瞬間に失われるはずだった人生をやり直すための

時間を与えられているということで。


コメディタッチに砕けた感じでふざけつつ

仲間たちと過ごす、かけがえのない日常が

しっかりと描かれていた良い作品でした。


総括

言うべきことをほとんど言ってしまった……

欠点がないわけではないですが個人的には非常に良い作品だと思って

最初から最後まで楽しんで読みました。


気になった方は是非読んでみてください。


●追記

記事を読み返してみて、内容についての具体的なことが

全然書かれていなくて、それはどうなんだと思ったので追記。


●裏生物(クリス)全般について

基本的に現実に存在しないものを主としてデザインされていましたが

(モンスター的存在なので当たり前)完全にオリジナルな発想のクリスも

いれば、海坊主などの伝承や空想上の生物をベースにしたものもありました。

前者も後者も素晴らしいのですが

後者に関しては既存のイメージをベースに作品独自の解釈を加えて

独特且つ、物語や作品世界観に噛み合うように上手く作られていた印象

でした。


●白雨について

この作品のヒロインでありキーマンな人物。

コメディタッチな作品に合わせてややとんでもない言動が

目立ちつつ、登場人物たちを見守る大人としての姿も

しっかりと描かれていました。


終盤にバックボーンに関する描写があり、それを踏まえた上で

見ると彼女がどんな目線でエンジを初めとする登場人物たちと

接していたのかがわかり、思うところがあり、一層魅力が

深まります。


●水田マリ

とある出来事からエンジたちの友人になる超能力者の女の子。

超能力のことで他人に対して閉鎖的になってしまって苦労していたの

ですが、エンジと出会って以降は学校生活を積極的に楽しむようになった

ようでほほえましい限りです。


●内藤くん、煤竹くん

エンジの友人の二人。ギャグシーンを盛り上げる役割をしっかり

こなしつつ、良き友人でもあった二人。

個性的な良いキャラなのですが特殊能力を持たない一般人であるため

戦闘時には役に立てず浮いている印象はありました。


クリスを使役するとか、対クリス武器のようなもので戦闘員化することも

設定上は可能だと思われますが実現せず。

やはりバトル面の完成度はこの作品の欠点ですね。


他にも魅力的なキャラクターが多数登場しますが割愛。




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猫田砂鉄の作品感想(小説、アニメ、漫画など) 猫田砂鉄 @kuroyamasyu

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