(小説感想)少女と移動図書館 竹雀綾人
●前置き
注意!内容的に否定的意見が多いので、そういった意見を聞きたく
ない方はブラウザバック推奨です。
まず、この作品の書籍としての分類の話ですが
集英社のスーパーダッシュ文庫というライトノベルのレーベルから
発売された小説です。
……なのですが……この小説は小説ではありません。
小説として発売されている以上、小説であることに
違いはないのですが、この作品は特殊な形式で作られた作品で……
詩集、なんですよね、実質的には。
この作品はSNS小説で且つ140字小説をまとめたもので
140字の詩がいくつも収録されているんです。
詳しくは以降で語ります。
●作品の概要
作品の舞台は人類が滅亡した未来の地球(厳密にはそうではないかも)
に取り残された最後の生き残りの少女、司書のフラスコ。
少女がいるんだから滅亡はしてないだろうというのは
もっともなツッコミなのですが、他に良い形容がないので
ご了承ください(ほぼ滅亡とか?)
彼女は移動図書館という色んなものを兼ねた乗り物で移動しながら
荒廃した世界を旅する司書。
この作品は特殊に特殊を重ねた作品で、語り部のみならず
登場人物が彼女一人だけなんですよ。
だから当然、一人語りがずっと続きます。
良くも悪くも個性的な作品、とは言えそうです。
●作品の構成
少女には『生き残っている人を探すこと』と
『世界を旅する』という目的が一応あるんですが
実質的にはただ世界を徘徊しているだけです。
なのでストーリーと呼べるような起伏がありません。
基本的に少女が荒廃した世界を構成するもの、たとえば
森や風や鳥、あるいは電話やパラソルのような道具類など
様々なものに対して思うことを詩の形式で語っていきます。
そのほとんどがストーリー的な繋がりのない、単一で
完結している詩の集合体なので
順番を入れ替えたとしても問題なかったりします。
そういった点に関して、詩集としてはともかく
物語性が低いという意味で小説としてはどうかと思いました。
●SF小説としてはどうなのか
人類が一人だけを残してほぼ滅亡した世界というのは
いかにもSF的です。
SF要素を含む作品といってしまって差支えないと思いますが
だとしたら良いSF小説ではない気がします。
世界観が魅力的ではないからです。
というか、舞台となる世界の描写が不十分なので
良い悪い以前にどんな世界なのか伝わらない、というのが
正しいですね。
滅亡後の荒廃した世界という特殊性の強い世界でありながら
どこか没個性なんです。現実の延長線上にある世界でしかない感じ。
140字小説という制限があるので仕方がない面もあるのですが……
●生気のない印象
一つ疑問があって、滅亡した世界に一人だけで生きている人って
食糧はどうしてるんでしょうか?
作中には食糧についての描写がありません。
彼女(フラスコ)がロボットのような、人間ではない食糧の必要ない存在
ということも考えましたが一切描写がないので確かめようもなく。
そういった面で現実味がないので彼女が現実に生きている生身の存在
である感じがしないんですよね。
もう一つは孤独な絶望的状況に反して、彼女が負の感情を吐露する場面が
少ない。全くないわけではないですが少ないし、あっても詩として綺麗に
彩られた文章表現の中では、負の感情の生々しさを感じませんでした。
普通は自分一人だけしかいない世界で孤独に取り残されたら、発狂しても
おかしくないです。とてもリアルな人物描写とはいえません。
作品唯一の登場人物である少女フラスコは、正直に言えばあまり魅力的な
キャラクターとはいえません。
たった一人しかいない登場人物なので、このキャラクターの挙動を見て
いるだけで満足、というぐらいが理想ですが残念ながら……
●小説としては評価が低くなってしまうが
この作品は最低限の舞台設定が付加されているだけの詩集です。
物語としては楽しみにくい印象です。
ですが、小説の表現形式の幅を広げる勉強にはなると思いました。
自分は現在、小説の書き方について模索しています。
現状は小説以外の記事しか投稿できていませんが
可能であれば小説も投稿したいなと思っています。
表現形式の一つの在り方として、個人的にはこの作品に触れられた
のは良かったと思っています。
●総評
かなり酷評気味になってしまった印象の作品です。
特殊過ぎる形式がネックになっている印象はあります。
作品は奇抜であればあるほどいい、というわけではないという
ことですね。
特殊な形式はそれゆえのメリットもデメリットも生む
諸刃の剣です。上手く操縦できなければ仇になります。
娯楽作品としてはおすすめしにくいですが
創作活動の勉強のために買うというのは悪くないかもしれません。
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