濁り水に唾を吐く

うらぶれた精神世界から紡がれる、取り留めのない思考の断片たち。
ただの妄想? 諦観? 孤独をこじらせた人間の末路?
答えはないのだけれども、だからこそ考える意味がある事柄たち。
時間の無駄? 暇人? ただの気取った人間の繰り言?
その真意は、人間の成れの果てにしかわからない。

閉鎖的な空間そのものをあらゆる方法で表現した短編になります。
内容や構成からして人を選ぶ作品ではありますが、本編を読んで少しでも興味を持った方には是非とも最後まで読んでほしい隠れた名作です。平易ながらも見事に的を射た表現の数々をはじめ、青年の鬱屈した思考や皮肉が余すことなく描写された文章。そして、言葉にできない閉塞感の滲み出した作品世界。そうした本作ならではの醍醐味の中でも、とりわけ価値観の本質が説かれていたのは面白い部分でした。私たちが普段、平面でしか見ていない物事の本質や、それに付随する考え方の酷薄な横顔。それらを見て見ぬふりしている自らの浅はかさを突きつけられたような印象です。

小説の深み、考察の楽しさというものを味わいたい方に勧めたい一作です。読み進めていくほどに、さらなる深みにはまっていくことと思います。本質の深淵に辿り着いたとき、貴方はなにを考えるのか。十人十色の考察の世界に、恐れず足を踏み入れてみてください。