Cchio《キオ》
とん……とん。
遠慮がちなノックの音が響く。宏が扉を開けてやると、予想通りの姿があった。
なかなか部屋に入らない
「……おじいちゃん、知ってたんだね」
「まぁな」
「美希、ここの仕事を辞めて、会社に戻るって。予定よりちょっと早いけど……」
ある意味、目的を果たしたからだろう。それで良かったのか悪かったのか。複雑な思いが宏の胸中を渦巻き、「淋しくなるな」と、自然に言葉が口をついて出た。
「彰に伝えてくれ。『いい加減、顔を出しやがれ』って、な」
しかし、次の瞬間、息を呑むことになる。
「彰は美希が好きなんだ」
宏は、まじまじと
彰の性格から考えて、美希に好意を抱いているのは予測していた。だが、それを
「そうだろうと思ってたよ」
平静を保ちながら宏は答える。
「美希も彰が好きなんだ」
「それは……良かったな」
「でも、二人とも何も言わないんだ……」
「なんで、お話しないんだろう? お話しすると、もっと大好きになれるのに」
真剣な眼差しを向ける
「そんな、言葉の足りない奴の手助けをするのが、お前の役目だろ?」
その言葉を聞いた途端、
「そのうち二人は結婚するよね! そしたら、おじいちゃんのところに、ちゃんとチョコを食べられる孫が遊びに来るね! そうなったら、おじいちゃん、淋しくないよね!!」
宏は皺だらけの手で
「お前が傍にいないのはつまらねぇな。……また、遊びに来いよ」
宏がそう言うと、
――
「な……?」
呆然と
何にせよ、美希を呼んでこなければなるまい。
宏は足早に部屋を出ようとした。
そのとき――。
「おじいちゃん……」
かすれたような、しかし小さくとも力強い声に、宏は足を止めた。
振り返ると、
宏は初め、その表情の意味が分からなかった。否、直感的に感じ取ることができたのだが、それは
「
宏は確信した。
自分の直感は正しい。
ゆっくり
認めてやらなければ――。
これは
「……おじいちゃん、大好き!!」
ふん、と鼻を鳴らして宏は応える。
「俺も、お前が大好きだよ」
サイドボードの写真の中から、恵が二人に向かって笑いかけている。
『人は喋る生き物だから、複雑な
何が複雑だよ。
宏は思う。
至極、単純なことじゃねぇかよ。……ったく。
たった、ひとことだ。ひとこと言うだけで、いいんだからよ。
大好きだよ――と。
宏は、恵に向かって破顔する。
――これは、ほんの少しだけ未来の御伽噺。
無邪気な機械人形が贈る……機械仕掛けの御伽噺――。
機械仕掛けの御伽噺 月ノ瀬 静流(PC不調) @NaN
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