彰《アキラ》
「……いつから、ご存知だったんですか」
勧められた椅子に座るなり、控えめに、しかし心持ち強い口調で美希は尋ねた。
「初めから、かね? 彰がPINO社に入ったとき、
「何もかも、お見通しだったんですね」
美希は落胆したようにため息をついた。
「飯も食わない、便所も行かない。いつもにこにこ笑っている。更には、あれだけたくさんいる爺さん婆さんの顔と名前を、一度で、それも正確に覚える。そんな四歳児がいるわけねぇだろ。
宏はちらりと恵の写真を見る。小さかった彰に二人とも振り回され、怒って、泣いて、笑って……。なんでこんな糞ガキのために苦労しなければならないのだろうと当時は思ったものだが、今は懐かしい。自然と頬が緩む。
「
そこで、美希は一度、言葉を切った。そして、思いつめたように吐き出す。
「――ここにいる皆さんは、
「さてな」と言いながら、宏はかつて自分が手がけた
「
「でも……」
「確かに
しかし会社は、役に立たない子供ではなく、人に代わって仕事をこなせる有能な秘書人形の企画を通した。失望した恵は、夢を求めて転職した。結局、在職中に完成を見ることはできなかったのだが――。
『機械人形より、人間の子供を作るほうが簡単ね』
いつだったか、苦笑しながらそう言う母親の恵を、小さな彰はきょとんと見つめていた。
そんなことを思い出しながら、宏はサイドテーブルに視線を移す。そこには新たに用意した一口チョコが積んであった。
「彰は俺たちに
美希は黙って頷いた。
「……ったく、自分で見せに来いよ、馬鹿息子が」
「彰さんも、言葉の足りない人なんですよ」
「ふん」と言いながら、宏は皺の多い顔を更にくしゃっと皺だらけにした。
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