明日は全国的に晴れるでしょう
綴。
第1話 明日は全国的に晴れるでしょう
「明日は全国的に晴れるでしょう」
お天気キャスターが笑顔で話をしている。
私の目に映る空はいつもどんよりとグレイがかったまんまだ。雲一つない晴天の空を見上げても、濁った重い色にしか見えなかった。
真っ白い雲が空に浮かんでいても、私には黒く、今にも泣き出しそうな表情をしているようにしか見えない。
どんなに太陽が照らしてくれても、私にはただ眩しくて痛いだけだった。
だから夜の方が好き。
日が暮れると白かった月が少しずつ光を纏いながら姿を見せる。
その姿を毎日毎日少しずつ変えながら、気分が乗らなければ雲に隠れてしまう。
小さな星たちは、その月から少しずつ離れた場所からそっと輝いて優しく見守ってくれている。
そんな夜空を見上げるのが私は大好きなんだ。
──そう、思っていた。
太陽の光を遮るように日傘をさして、下を向いて歩いていた。
目を伏せて、心を閉じて生きていた。
ある日の夜、いつものように私は月を眺めていた。
まん丸でニコニコとした月だった。
「潮風を浴びて夕陽を見てごらん」
──そう、私には聞こえた。
海へと向かって車を走らせる。窓を開けて風を浴びながらハンドルを握っている。
髪の毛が風に靡いてくしゃくしゃに乱れるけれど、気にせずに車を走らせた。
車を降りて海岸へと向かって行くと、波の音が近づいてくる。一歩前に進むたびに、サクッサクッと砂が鳴り靴に砂がまとわりつく。
日傘を閉じて空を見上げると優しい世界が広がっていた。
海岸線に沈んで行く夕陽は優しいオレンジ色に輝き波にキラキラと反射して美しい。
風が運んでくる潮風の香りは私のからだの中を通り抜け、何かを浚っていった。
「ピーヨロー」
空を飛ぶ鳥の鳴き声や寄せては返す波の音が、なんだかとても切なくて一筋の涙が頬を伝って落ちた。
──色を付けていたのは、私自身だった。
全てを人のせいにして、人を憎み、いつか仕返しをしてやろう!
そんな事ばかり考えて、太陽の日差しを遮り、下を向いて歩いていた。
波がそんな私の気持ちを少しずつ少しずつ海へと持って行ってくれる。
潮風が私のからだの中の空気を入れ替えてくれる。
空は、こんな私の事を大きな心で受け止めてくれる。
──そう、私には大切なものがある。
その夜の月は、いつもよりも優しい笑顔でニコニコとしていた。星はキラキラと輝いて優しい音楽を奏でてくれた。
「明日は全国的に晴れるでしょう」
お天気キャスターは笑顔で話をしている。
明日は大切な人に会いに行こう。
太陽が照らしてくれる道を、広くておおきな青空の下を、ゆっくりと歩いて行こう。
顔を上げて、心を開いて生きていこう。
見上げた空には真っ白な雲が広がっていた。
─ 了 ─
明日は全国的に晴れるでしょう 綴。 @HOO-MII
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