第4話 友達が炎の中に突っ込んでいってるんだが

 接名たちの通うスフィアステラ高等学校は小さな島の中央に位置しており、辺り一面は空色に輝く海で囲まれており、普段はその島から出ることがまず不可能である。しかし、週に一度ではあるが比較的大きな島とを繋ぐ列車が走っており、その列車を使って近くにはないものを買いにいく生徒が多数存在している。接名もその内の一人であり、ずっしりとした紙袋を片手に軽い足取りで歩いていた。

 「気にしてた本。見つかってよかった~。」

 口にした独り言には喜びの色が強く、整理された石畳の上を軽快な音が鳴り、やがて砂粒をこすり合わせた音に変わって、それもベンチの手前でピタリと鳴りやんだ。

 腰を掛け、接名が意気揚々と取り出したのは、星座にまつわる本であり、それをめくり始めると、紙面とのめくるめく逢瀬が始まった。

 星座とは、空に輝く天体を人が結んで形作ったもの。そこにイメージや神話を足していき、星座の総数は88個に昇る。そういったことが書かれた本を静かに滑らせながら、ふと、接名の思考は一つの結論に導かれた。

 「(なんだか、不思議だ。あったもののはずなのに、やっぱり実感できない)」

 接名にはい戸惑いがあった。星座と呼ばれたものが二年前には当たり前のように見えていたことはもちろんの事だ。いくつか残った映像から、その光の輝きを接名は知ってこそいる。しかし、それは接名にとっての普通ではなかった。接名にとっての夜は月が寂しく満ち欠けするだけの悲しい世界、朝夕の輝きの尊さを知りための反例でしかなく、星の満ちた夜は、言ってしまうと偽物。映像や写真は、妄想から生まれた絵画でしかなかった。

 「(星のある夜って、どんなに綺麗なんだろう)」

 純粋で混じりけのない願望は、少年の満たされない心の中で強い主張に変わっていた。

 「見てみたいなぁ」

 あどけない声は、ちいさな呟きになって形になるも、すぐさま風に吹かれて消えていった。

 「…‥‥こちらからは観測できない。やはり、近づかないと駄目そうだ」

 聞き覚えのある声。それに反応して視線を向けると、少し離れた位置にマークがいた。山麓の方面を見ながら誰かと会話しているのか、トランシーバーのようなものを付けており、服装も普段の落ち着いた大学生が着るようお洒落な服ではなく、まるで機動隊の着る隊服のような出で立ちであった。

 「‥‥‥マーク、用事があるから付いてけないって言ってたけど、居るじゃん」

 少し不服そうな顔をするも、気になって声を掛けに行く。

 「おーい、マーク‥‥‥」

 「ああ、星遺物があると考えた方がいいかもしれない」

 その言葉を聞いて、接名の声はしりすぼみに小さくなる。そんな接名に気づきもせずに、マークはトランシーバーへと声を掛けていく。

 「‥‥‥やはり、ここから観測するよりも、実際に見に行ったほうが早い。俺が行くから、支援の方をお願いします」

 トランシーバーを腰に掛けて山の方面へと歩いていくマーク。その姿を視線で追いかける接名は、頭の中の動揺と疑問を処理せずにいた。

 「(星遺物が、この島にある?それって休止状態ってこと?いや、星遺物は確か、人間の魔力に…‥‥って、そうじゃないし、そっちじゃやない!マークは、なんで星遺物があることを知ってるの?というか、誰と会話を‥‥‥)」

 ぐるぐると巡る逡巡。熱くなる額と滲みでる冷や汗に、不安と焦りで心が苦しくなっていく。友人の不穏な行動を取っていて、その向かう先は人間を襲う怪物へ。ならば、自分の取るべき行動は。

 接名の思考は終わることなく続き、接名の思考は悪い方向へと加速していく。この場合、考えすぎることは最善とはいえず、むしろ悪手とすらいえた。けれど、思考からは切り離されたようにして、接名の体は自身の最善のために走り出していた。

 「取り敢えず、話から聞かないと、始まんない!」

 そう言って、接名はマークの姿を追いかけ始める。人混みをかき分けて、人の少ない山間部の方へと走り出していく。


 その接名の姿を遠くから眺める者がいたが、接名がそれに気づくことはなかった。

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