第6話 孤独な独白

 わざとらしく、地面を強く踏む。ずんずん、ずんずん。不機嫌を隠そうともせずに、その足は元居た場所へと帰ろうとする。

 「なんだよ、こっちは心配で来てやったのに、あんな言い方ないだろ」

 不満を溢す口は大きく開かれ、柳眉倒豎の様子を見せる接名は高い声を荒げていた。

 「というか、魔道が使えないからなんだってんだ。そもそも、昔の人たちはそんなの無くたって戦ってたんだぞ!だから‥‥‥」

 だから。その後の言葉を継ぐことが出来ずに、思わず木へと寄りかかる。寄りかかって、そのまま地面にへたり込む。

 「‥‥‥マークにとっても、僕は要らないのかな」

 地面に投げかけた言葉は弱弱しく、活発な面影はどこにも見えてこない。

 接名の脳裏に浮かんでくるのは、あの時の事。師匠と呼んで慕っていた人との最後の会話だ。

 『魔道も使えないお前がいたら邪魔なんだ。弱い足手纏いは、私に要らない』 

 そう言って去った後ろ姿が、いつでも鮮明に思い出せる。あの言葉を、あんな風に言わせてしまった自分が情けなくて仕方なかった。だから、少しでも変わりたくて頑張って来た。あの背中に近づきたくて、あの在り方に憧れて。

 じゃあ、今の僕は?

 「うっがぁぁぁぁ!」

 苛立ちから、背にした木を叩きつける。一カ月間、沸々と溜まったストレスの発露だ。

 『なんというか、前から思ってたんだが、記憶ないことに関心なさすぎじゃないか?魔道が使えないこととか、焦ってもおかしくないだろうに』

 「‥‥‥気にしてるよ、割と」

 悔しくって、とっても辛くて。でも、そうだと口にしたくない。なってしまったのか、なるようにしたのか分からない疎外感に苛まれながら、言葉は零れていった。

 そうやって、消化しきれない感情を咀嚼しながら、また歩き始める。心配と苛立ちを後ろに抱えながら、元いた場所に戻るために。

 「うん……?」

 そうして、一つのことに気づく。考えてみれば、走ってマークから去った後、怒りに任せて歩いてここまで来た。そして、入って来たこの森は木々の間が狭く、少し先の道すら不確かなほどに暗く、獣道だ。

 まあ、つまるところ。

 「‥‥‥ここ、どこ?」

 迷ってしまうのは、ある種必然であった。


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