第5話 イケメンも、たまに間違える
山麓の方へと向かって走り出すことニ十分。辺りに街の気配はなくなり、林が風を受けてざわざわと鳴る音が響いてくる。マークの走る姿を追いかけていた接名だったが、ついぞ追いつくことは出来ず、見失ってしまっていた。
「う─ん、走りには自信あったんだけどな」
そうぼやく接名は、森の不安定な足場に気を付けながらも周りを見渡す。誰かがいる気配、というより、人のいた痕跡がない。本当に、マークはこっちの方に歩いて来たのか?そんなことすら浮かんでくるほどに。
「もしかして、こっちには来てないのかな‥‥‥?」
「ああ、お前の後ろにいるからな」
「うひゃ!」
耳元で囁かれた言葉にびっくりして、思わずかわいい声が上がる。後ろを向くと、そこにいたのは追いかけていたマーク当人であった。
「な、なんで‥‥‥?」
「なんでってのはこっちの台詞だ。なんでついてきた」
なんだか、マークの様子が違う。普段の優しい雰囲気と違い、どこか棘のある気迫を接名は感じ取った。
「それは‥‥‥マークが星遺物がどうって言ってたから‥‥‥」
「‥‥‥」
「せ、星遺物で何があったのかわからないけど、こんなの辞めようよ!あ、そうだ。アマネセル。アマネセルって組織は、星遺物から人を守ってくれるんだ。そこに任せれば‥‥‥」
「そのアマネセルの所属なんだ。俺は」
「え」
深刻な表情で告げられた言葉に、思わずぎょっとする。人々を星遺物から守るために発足した国家の組織に、友人が所属している。その情報量に言葉が出てこない接名を待たずに、
「今、極秘の任務が任せられていて、周りに知られたら駄目なんだ。だから、見なかったことにしてそのまま帰ってくれ」
言うだけ言って、接名を追い越して森の深い所に行こうとするマーク。
「‥‥‥なんだ?帰るのに付いてやってはやらないぞ」
その腕を掴んで引き留める接名は、戸惑いを持っていてもその目だけは真っすぐの見開いていた。
「し、心配だから、僕も付いていく」
「はぁ!?」
「だって、マークが戦うイメージとかないし、ほら。僕足速いから‥‥‥」
「あのな、足が速いから役に立つなんて次元の話じゃないんだぞこれは!お前みたいな一般人がいても足手纏いなだけだ。気持ちはわかるから、帰ってくれ」
「でも、僕は心配で」
「だから、気持ちは分かるって言っただろ!無理なんだよ、魔道が使えないお前じゃあいつらには‥‥‥」
そう言い切ろうとして、思わず後悔する。接名の表情が泣きそうになっていることに気が付いて。
「‥‥‥マークも、魔道が使えない僕は要らない、ってこと?」
「嫌、その、そういうことを言ってるのでは‥‥‥」
震える声に言葉を間違えたことを訂正しようとするも、それは接名に届かない。
「もう、いい」
握っていた腕を離して、ゆっくりと元の場所に戻ろうとする。そんな接名を、追いかけようとして、立ち止まる。
「‥‥‥マークくん、どうしたの?入って来た子、追い返せたの?」
「‥‥‥はい、追い返しました」
「なら、さっさと任務に戻って。単独で任務を任される意味くらい、分かってるでしょ?」
トランシーバーからの声を返さずに、そのまま山の中へとゆっくりと入っていく。すれ違ってしまった後悔を嚙み潰せないままに。
この掛け違いがあんな結果になるなら、ちゃんと話しておけばよかった。この後、任務を終えて帰還したマークはそう口にしたことをここに記す。
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