第2話 暇で退屈でありふれている。それが尊ぶべき日常である。
「魔道とは心の形そのものであり、人の真実を表す鏡そのものである。魔道黎明期に活躍した学者であるトール・エルンの言葉である。熱い心の持ち主には炎を扱う力が、氷のように冷徹な心の持ち主には氷を扱う力が現れ、それを専門的に扱う者のことを、人は魔道師と呼ぶようになった。」
教壇に立って黒板に板書する教員は、宙に浮かせた教科書の情報を声でなぞらえながら授業を進めていく。
「どれほど実用性があるのかや、魔力の多寡を度外視すれば、十三歳以降の男女であれば誰でも扱うことの出来るのが魔道の大きな特徴である。まあ、といっても──魔道科に進まない人たちには、あまり関係のない話だがね」
教員が振り返って話す言葉に、生徒の様子は二分されていた。寝る者、漫画を読む者、こそこそとお喋りに熱中する者もいれば、集中して授業を聞く者、必死に板書する者もいる。それにあきれ半分の様子だが、教員の男はただ授業の続きを再開するだけだった。
「正直さ、魔道科進まない奴にこの授業意味あんの?」
「それな、俺ら普通科志望の奴とかには意味ないのに」
「意味わからんわ─。接名もそう思わん?」
紫髪の少年の問いかけた先にいるのは、少年というにはあまりにも美しかった。男子着用の制服を着こなしてこそいるが、高く結んだポニーテールを腰のあたりまで伸ばしており、その横顔は白磁の皿かと見まがうほど白い肌で作られていた。そんな大半の人間は女性だと間違えるほど美人な彼は、白紙に文字を書くのに集中するのみで、そもそも言葉が届いていないようだった。
「やめとけって。接名が魔道科志望なの知ってんだろ?」
「いやさ、でも接名の場合‥‥‥」
「まあまあ。応援すんのが友達ってもんでしょ」
そんな二人の生徒の駄弁りに区切りをつけるように、鐘の音が教室に響き渡った。
「それでは、本日の授業はここまでとします。それと授業の話とは少し逸れますが、進路希望調査の紙が未提出の者はこの後私の所に来るように、では終わります」
そう告げた教員の言葉を皮切りに、生徒たちから少しずつざわめきが響いてくる。
「接名ちゃ─ん、聞こえてますか─?」
「ん?聞いてるけど、どうしたのエヴァンス。」
「いや、聞こえてるんだったら返事くらいしてくださいよ」
「?だから今返事したじゃん」
「あ、これ聞こえてなかったやつだ」
「‥‥‥どういうこと?」
微妙にすれ違った会話に困惑した接名を気遣って、紫髪の少年は話題を変える。
「あ―、やっぱいいよ気にしなくて。それより飯行こうぜ、飯。」
「あ、ごめん。用事あるから先に行ってて」
「そっか。じゃ、先行くぜ─」
エヴァンスと呼ばれた紫髪の少年は、少し残念そうにしながら廊下の方へと歩いていった。それを見届けた接名はバックから取り出した紙に一瞥するとため息をついた。白紙にされた進路調査書を見ながら、
「困ったなぁ」
と漏れ出た呟きも、昼休憩の活気に飲まれてすぐに霧散した。
「進路希望、再提出の期限は過ぎているんだよ、接名くん」
「‥‥‥えっと、すみません」
神経質そうに調査書を叩く教員を前に、接名は視線を下に向けて謝るだけだった。
「‥‥‥たしかに、君はまだ一年生でどんな進路を歩むのか不明瞭なのは分かる。しかしだ、この前のように【正義のヒーロー】と書くのでは流石に頂けない。職員会議で怒られるのは私の方なんだ。もっと、具体的に警察官とか消防官では駄目なのかね?」
「考えてはみたんですけど、あんまりしっくりこなくて……」
表情一つ変えずに問いただす教員に、後ろで束ねた長い髪を梳きながら応答する接名の言葉は歯切れが悪く、普段の明るく高い声も悩みの色に染まっていた。
「‥‥‥君は確か、二年次になったら魔道科に入りたいとも書いていたね」
「はい、魔道を使って人助けがしたくて‥‥‥」
「魔道が使えない、君がかね?」
「そ、それは‥‥‥。いつか、使えるようになりますよ!多分!」
教員の言葉に思わずどきりとして、接名は慌てて言葉を返す。
「そのいつかは、いったい何か月後を指すんだい?三カ月かい?それとも、六カ月後の話かい?」
「う‥‥‥」
教員の口撃に、口を噤んだままになって、接名は押し黙ってしまう。
「‥‥‥失礼、少々意地が悪かったようだ。しかしだね、不確定要素の大きいことを将来の目標に定めるのは、あまり得策とか言えない」
怜悧な言葉の中に将来を慮る思慮深さがあり、それを受け止めて尚、納得のいかない表情を作ってしまう接名。
「記憶喪失がいつ治るかは分からないが、今の自分が納得のいく将来像があれば、昔の君だって納得のいくものさ。‥‥‥一週間、時間を差し上げます。それまでの間にある程度は決めておくように」
「‥‥‥分かりました、じゃあ失礼します」
形のよい礼をしてその場を去る接名。扉に手を掛け、廊下へと出るとホッと一息吐き出してから食堂の方へと向かっていく。
「(将来の夢、‥‥‥将来の夢かぁ)」
人混みの多い廊下をスイスイと避けながら進んでいき、同時に頭を悩ませる。
「(師匠は魔道師として人助けをしていたけど、今の僕だと魔道を使うことさえできなさそうだし)」
─———神門接名は、魔道を使うことが出来ない。齢十五にして突きつけられた現実は接名の未来に大きく影響していた。本来十三歳以降の男女であれば、誰でも使えるそれに、負の例外として接名は位置していたのだ。
「(‥‥‥やっぱり、記憶喪失のせいなのかな)」
今まで体感してきた人生経験から精神は育まれ、その培われた精神が魔力を通して発露したものが魔道という身体機能である。つまり、精神を作り出す過去の経験を忘れてしまうと、魔道は扱えなくなってしまうのではないか。医者に言われた推論を思い出す。そうなると、記憶喪失から二年経った現在、魔道を扱えるようになるには、単純計算であと十一年。そこから、魔道科の人たちのやるような授業や修練をするのに五年ほど費やしまえば、魔道師になるには三十を超えてしまう。
現実を見れば見るほど、浮かんでくる理想とはかけ離れ、乖離していく。そのことが、ひどく歯がゆい。
「(やっぱり、師匠みたいな魔道師にはなれないのかな)」
不透明な将来像を浮かべて消してを繰り返していると、いつの間にか目的の食堂へと足を踏み入れていた。
「お前らが走ってぶつかったからそうなったんだろ!!」
「ああ?そっちが避けられないぐらいすっとろいのが悪いんだろうが!!」
男子生徒二人の怒号が食堂中に木霊する。前者の声の主は紫色の頭髪が特徴的なエヴァンス。そしてもう一人の生徒は鋭い目つきが特徴的で、二年次の生徒が着用するワインレッドに白のストライプの入ったネクタイをゆるく締めており、風貌は不良と形容されるそれに近かった。そして、その生徒のYシャツにはスープのような染みが作られており、床に散乱するラーメンスープと同じ色が付いていた。
「あ、接名。お帰り」
にらみ合う両者を遠巻きにした所にいるのは、二人の共通の友人である璃音であった。エヴァンスと共に食堂に行っていた彼だが、先ほどまでと違って、少し赤くなった頬を苦虫を嚙み潰したような表情で抑えていた。
「璃音!どうしたの、その傷」
「あいつにやられたんだよ、あの目つきの悪いやつに」
「やられたって、なんで」
「喧嘩の仲裁に入ろうとしたら、当事者の問題だって言われて‥‥‥くそ、痛ぇな」
「‥‥‥なんで、あの二人は喧嘩してるの?」
悪態をつきながらも説明する璃音に静かに問い返すと、
「さあ。飯買って帰って来た時にはもうすでに喧嘩してた。確かに言えんのは、ラーメン買ったのがエヴァンスの方で、魔道科の奴がぶつかった側。そんでもって、相手には謝る気がゼロってことだな」
接名にだけ聞こえるようにしながら喋る璃音に耳を近づけつつも、視線だけは喧嘩の方へと向ける。目つきの悪い生徒の後ろには何人かの生徒もおり、目つきの悪い生徒と同じワインレッドのネクタイを付けていた。ニヤニヤとした表情を張り付けて、口論の場を眺めている彼らの前では、口論が今もなお白熱し、エヴァンスの額には少なくない血管を浮かべていた。
「お前らのせいで、折角の下ろしたての服が汚れちまったんだぞ。これ、どうしてくれんだよ」
「だから、元はと言えばぶつかってきたそっちが悪いんだろ!俺はちゃんと前見て歩いてたんだからな!」
「ふん、どうだか。その薄汚ねぇ紫キャベツみてーな髪のせいで視界が悪かった、なんてこともあんだろ?」
「て、てめぇ……!!」
煽られたエヴァンスの右手は爪が手のひらの肉に深く刺さっており、小刻みに震えているのが少し遠いこちらからも見て取れる。これ以上罵倒の応酬が続けば怪我人が出るのは火を見るよりも明らかであった。
「あいつら、流石にやばいだろ。先生たち呼ばないと‥‥‥」
「僕止めに行く。ちょっと待ってて」
「え、ちょっと、接名!?」
璃音の制止も聞かずに、両者の間へと接名は割って入りに行く。
「なんだ?殴りたいのか?いいぜ、やってみろよ。へなちょこパンチがいくら来ようが、俺は構わないからよ」
「‥‥‥ああ、そんじゃあお望み通りに……!!」
「エヴァンス、もうやめよう」
振り上げられた右腕を掴んで、接名はエヴァンスを止める。
「な、接名!」
「人に暴力を振るうのは、どんな形でも良くないと思う。」
「で、でもよ……」
「おいおい、女が仲裁に入ってくんなよ。それとも、こんなダサい奴がボーイフレンドなのか?」
納得のいかない表情を見せるエヴァンスをさらに煽るかのように、目つきの悪い男はにやつきながら横やりを入れてくる。
「いや、僕は男なんだけど」
「‥‥‥ああ?」
もっとも、その横やりが入る場所はどこにも存在しないのだが。
「逆に聞きたいんですけど、なんで女子と間違えたんです?制服で男子って分からないんですか?」
怪訝そうに首を傾げ、躾のなっていない子に再三言い聞かせるようにして出された言葉に不良の生徒は思わずたじろぐ。
「お、お前が女みたいな髪型してんのが悪いんだろ!!」
「‥‥‥ポニーテールってそんなに女子っぽいかな?」
「当たり前だろうが!!」
思わず入ったツッコミに髪を撫でながら疑問符を浮かべる。そんな接名に指を指しながら、
「ってああ、思い出した。お前、神門接名だな?」
「そうですけど、何か?」
「ああ、二年の方でも有名だからな。‥‥‥運動神経が全クラストップで、なおかつ女みたいな顔してて、そして一番有名なのが‥‥‥」
少し間を開けて、表情をニヤつかせながら放たれた言葉は、純然たる悪意に染まっていた。
「魔道も使えない出来損ないなんだってな!」
「‥‥‥」
「はっ!こりゃ傑作だぜ!中学生だって使える魔道を、もう十五にもなる高校生が使えないなんてさ。ホント、俺なら恥ずかしっくて死んじゃいそうだな~」
腹からこぼれ出る笑いを必死に抑えるように喋る不良に同意するかのように、後ろにいた魔道科の生徒たちも同様に悪辣な笑みを浮かべていた。
「おい、接名が魔道使えないのには、ちゃんと理由が」
「いいよエヴァンス。‥‥‥確かに、こころが未熟ってことに関しては、何個か思い当たる節があるよ」
首筋を掻きながら答える接名の表情は、
「なんだよ、言い訳か?まあ、歯向かったことへの反省くらい聞いてやっても」
「でも、やった事を人に謝らないのは、おんなじくらい子供っぽいと思いますよ?」
「ああ?」
ピキリ、と額に血管を浮かべる不良を前にしても、接名は一切構わずに話を切り出していく。
「ちゃんと聞くけど、これって先にぶつかってきたのは相手からなんだよね?」
「そうなんだよ。俺が飯運んでる時にぶつかってきて、まあそれがそっちのシャツにこぼれたんだが……」
「そうだよ。その紫頭のせいで、こっちはシャツが汚れたのに加えて、やけどまでしたんだ!この落とし前はどうつけてくれんだ!?」
威圧するようにして距離を詰めてくる相手を前にしても、接名に怖がる様子は一つもない。ただ話の整理をするためなのか、首を何度も頷かせるばかりだった。
「なるほど。‥‥‥・これってさ、結局自業自得って言わない?だって、ただ歩いていたエヴァンスがスープを相手に掛けてしまうなんて、よっぽど強くぶつかんないと出来っこないじゃん。そんなの、どう考えてもそっちが悪いよ」
理路整然でハッキリとした物言いに、不良はわずかに気圧される。
「し、知るかよそんな事。てめぇみたいな魔ガキの言葉なんざ、信じるに……」
「ほら、やっぱり。先輩の言ってること間違ってるよ」
「はあ?何がだよ!」
「さっきから、スープを掛けたことに対して何かを言うんじゃなくて、僕やエヴァンスの見た目とかの関係ない部分を貶してる。それって、自分たちが間違っているのが分かってて、反論がもう出来ないからでしょ?それって、魔道が使えない僕より、よっぽど子供じみたやり方だよ!」
「ぐ、ぐぐぐ…‥‥」
甲高くも芯の通った発言に完膚なきまでに言い負かされたのか、それ以上口を開く事が出来なくなった不良を見て、今まで静まり返っていた食堂はにわかに色めきだっていく。
「二年の奴、接名くんに言い負かされちゃってる」
「正直、喧嘩の理由もショボかったし、なんかダサいよね」
「ね─」
接名の勢いが伝播していくように、食堂を包む雰囲気は二年の生徒にとって完全にアウェイなものへと変化していく。
「こ、この野郎…‥‥!」
不良の顔色はだんだんと赤くグラデーションされていき、全身がわなわなと羞恥で震えていく。瞼は完全に見開かれ、接名を移す瞳には憎悪の色すら滲ませており、もはや手が出る寸前に達していた。
「‥‥‥ぶっ殺す!」
振りあがった腕に、構えを取る接名。しかし、その拳が接名に触れることはなく、先ほどの再現とばかりに一人の青年によって止められていた。
「やめましょうよシートン先輩。あんたの負けだ」
ひどく落ち着いた声だ。高校に在籍する生徒が出す声とは思えないほどに低く、尚且つ、シートンと呼ばれた生徒の暴行を止めることに一切の焦りがない。まるで、子供の癇癪をあやす父親のような、圧倒的な差がそこにはあった。そして、その青年の存在を接名はよく知っていた。
「マーク!!」
「よ、接名。いい反論っぷりだったぜ」
マークと呼ばれたその青年は、翡翠を閉ざした瞳に額縁を掛けるような黒い眼鏡を着用しており、そのフレームをギリギリを掠めるようにして癖のついた茶髪を整えた美丈夫であった。そして、そのやけに目立つ顔面に食堂中にいた女子生徒の大半は頬を赤らめていた。
「え、そう?‥‥‥というか、聞いてたんだったら止めに来てよ!友達でしょ!」
「いや─、すまんすまん。昼も終わりが近いし、せめてサンドイッチだけでもって思って……」
「もう!大変だったんだからね!」
凛としていた声音は、今までの可憐なものへと変わっており、その様子にマークは苦笑するばかりだった。
「ははは。‥‥‥とまぁ、さて置きまして」
今まで掴んでいた腕を下ろし、シートンを含めた魔道科の生徒たちへと顔を向ける。
「先輩たち」
「な、なんだよ一年。お前になんか出来んのかよ」
「まぁ。俺のできることなんてそうありませんよ、まぁ。俺はってだけですけど」
そう言って後ろに背を向けると、そこには体躯2メートルは超える大男が仁王立ちしていた。
「お前ら‥‥‥!!」
「か、神木先輩‥‥‥!!」
その大男を見た瞬間、魔道科の生徒たちは全員が肩を震わせる。
「…‥‥誰?」
「三年の先輩だ。まぁ見ておけ」
接名の疑問に答えるマークは、特に不安もないように態度だ。
「魔道科とは選ばれた人間しか入ることが出来ない学科というのは事実。されど、それは魔道師ではない人間よりも優れている証明ではない!まして貶すための、免罪符でもない」
「け、けど神木先輩、俺たちは」
「俺たちは、なんだ?」
見開かれた瞳は、シートンのチンピラじみた威圧ではなく、捕食者が非捕食者に見せる絶対者たるオーラを垣間見せ、それに当てられた不良たちはもはや喋ることさえ出来なくなっていた。
「それじゃ反省として汚したもん片付けるぞ。いいな!」
「は、はい!」
神木の号令を皮切りにして、片付けのために駆けていく魔道科の生徒たち。マークも、神木先輩についていって清掃用具を取りに向かっていく。
「へ、いい気味だな。ありゃ」
「まったくだ」
「これでもう、あんなことしないといいんだけど」
そんな舎弟じみた関係の彼らを遠巻きにして、三人は所感を述べるばかりであった。
「にしても、なんか意外だったな」
「何が?」
不思議そうにして、接名はエヴァンスへと問い返す。
「何がって、お前のことだよ」
「そうかな?僕がエヴァンスを助けたのはそんなに意外?」
「いや、そっちじゃなくて、言い返してたほうだよ。接名ってさ、口調も柔らかくて優しいから、あんな風に物申せるとは思わなくってさ」
一日に一回は人助けをしているほどのお人好しである接名は、その人柄のよさからも分かるように争いを好む質ではなく、実際に人と口げんかするのはとても少ない。しかし、そこにも例外は存在するものだ。
「確かに、人と争ったりするのはとっても苦手だよ。あんな風に言い返すのも、本当は好きじゃない。でも、あそこで言い返さないと、あの人たちはこっちがやり返さないからって何度でもやってくると思う。そういう相手には、やり返されるって意識を持たせなきゃいけないんだ。こういうのを【争いの原因療法】って言うんだ」
どこか反芻するように、どこか懐かしむようにして、接名は言葉を切り出していく。その言葉は接名の出した答えというよりは、誰かの教えであるかのように聞こえた。
「それに、友達が傷つけられてるのに、黙って見過ごすことなんて出来ないよ」
ニカっと笑う接名の笑顔は屈託なく、二人の友人は同じことを思い、同じ言葉を吐き出した。
「「やっぱり、どう見ても女子だな」」
「いや何で!?」
驚愕のあまり、目を丸くする接名。
「いや─、やっぱりどう見ても女子にしか見えんわ」
「わかる。あいつらが女子に間違えんのも納得だわ」
「もう、なんで皆間違えるのさ!男子の制服着てるからわかるでしょ普通!」
納得が行かないとばかりに顔を膨らませる接名を見て、二人は満面の笑みを見せる。そんな様子に接名はさらに不貞腐れて髪の尾を梳かせていく。
「はぁ。なんで皆間違えるかなぁ。やっぱり、マークみたいに眼鏡かけた方がいいのかな?」
「いや、お前の場合、そのポニーテールが間違える要因だと思うけど」
「なんで?むしろカッコよくない?」
「いや、そうはならんだろ」
「お前のセンスもようわからんわ」
ツッコミを入れる彼らを遮るようにして、授業前の鐘が鳴り響く。
「あれ、もうこんな時間?」
「俺飯食えてないんだが!」
「俺ら三人ともそうだろ。今から買って間に合うか‥‥‥?」
「おい、三人とも!」
璃音がそう思案していると、後方からマークの声が掛かる。
「これ、受け取ってくれ」
振り返るとすぐさま物を投げられ、三人は手でキャッチする。それは、先ほどマークの持っていたサンドイッチであった。
「え、これ、マークのじゃ」
「遅れちまったからな、それの詫びだ。それじゃ、また後でな」
そう言って、掃除のために戻っていくマークの背中はやたらと大きなものに見えた。
「‥‥‥かっけぇな」
「ああ。ああいうのをイケメンっていうべきなんだろうな」
「だよね、やっぱり、マークは本当にかっこいいや」
そう賞賛を入れる三人だったが、ふと疑問に思う事が出来た。
「だな。にしても、なんでマークって人と仲良いの??」
璃音の問いかけに接名は、
「うん!この島に来てから初めての友達なんだ!」
そう言って走りだす接名を追いかけて、二人は教室へと戻っていく。
その後食べたサンドイッチの味は、それなりに美味しかった。
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