第8話 星遺物、君臨
奇妙な事は往々にして起こり得るものだ。記憶喪失も、魔道という機能が不全であることも、なんなら星が落ちることも含めて、奇妙であると言い切れる。しかし、しかしだ。
「な、何で、喋って‥‥‥」
これほどまでに、おかしな事が起こるなどあり得るのか。‥‥‥いや、星が落ちてくるのはよく考えたら同じくらいじゃないか?接名の脳はそんな疑問の応答でいっぱいいっぱいであった。
「‥‥‥」
先ほどまであった刀と同じで、漆黒を基調として朱色のヒビが入った手錠は何も答えない。
「あ、えっと。もしかして、僕が誰かを喋る方が先?」
「そうだ。人に何かを尋ねる時は、まず自分が何者かを明かしてからだろ」
「確かに!じゃあ、僕の名前は神門接名。えっと、よろしくね」
そういって左手を手錠へと差し伸べる接名に、手錠は質疑を加える。
「神門‥‥‥セツナ?」
「‥‥‥ああもしかして、読みが分かんない?神様の門に、名前を接ぐって書いて読むんだけど‥‥‥」
「‥‥‥そうか」
「じゃあ、僕の質問に移っていい?君は誰?なんで喋れるの?もしかして、さっきまであった刀も君なの?」
「おい待て。矢継ぎ早に喋るな、わからなくなる」
「あ、ごめん。つい」
「‥‥‥まぁいい。じゃあ名前からだ。私の名前は───」
名前を告げる、その瞬間。
「「!!」」
───それは、流れ星のように現れる。
気づいたのは木造の神社を踏み潰すような音が聞こえてから。その姿見は、黒い鉱石を纏った巨大な熊。鋭利な爪と、底冷えするほど恐ろしい瞳、体に刻まれるいくつもの青白い光の中で特段輝くのは、腰から尾にかけての七つの星。
『───オオオオオォォォォォォォォォォォ!!!!!』
山を打ち砕かんとばかりに叫ぶ唸りは、草花を裂き竹林を割るが如く。
天の頂きにて方角を示していた星座。大熊座の星遺物が、そこに君臨した。
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