第1章

第1話 転生

 俺はポケットからあるものを取りだした。それは、スマートフォンのような端末だ。


 デビルクエスト内にはこのスマートフォンを使い、ストーリーを進めていく。


 本当にデビクエの世界に来てしまったのなら……


 俺はスマホを操作し、プロフィール欄を見に行った。


 名前:サイ・ジャック

 Lv:25

 職業:魔王

 固有スキル:魔獣使いモンスターテイム

 追加スキル:①?

 ②?

 ③?


 ……これは間違いない。あの時戦った魔王ジャックと全く同じだ。


 来てしまった……本当に……来てしまったのか!?


「何をそんなに見ているんですか!?」


「ジャック様。いつも以上にソワソワしていられますが何か」


 目の前のメイドの2人。ジャックを倒した後、秒で転移してきたメイド達だ。


 あの時はただのNPCだと思っていたが……


「そんなことよりジャック様! 今日は私が夜ご飯お作り致します!」


 陽気なメイドがそう言いながらグッドマークを作った。


 なんだろうこの感じ……ゲームの感じがしない……


「あ、そ、そうか。ありがとう」


 俺がそう言うと、陽気なメイドは嬉しそうにぴょんぴょんとはねた。


 確かここら辺に……あった。これを使えば。

 俺はスマホのアプリを開き、メイド2人を撮した。


「どうかしましたか?」


 名前:ティレイ

 Lv:18

 職業:メイド

 固有スキル:氷操術アイスオペレイト

 追加スキル:①?

 ②?

 ③?



 名前:アルイ

 Lv:18

 職業:魔王

 固有スキル:力昇パワーブースト

 追加スキル:①?

 ②?

 ③?


 上が銀髪ショートの静かめメイドで、下が赤髪ロングの元気めメイドか。


 その時、誰かが部屋に転移してきた。


「ジャック様。ただいま勇者を1人追い返し、戻って参りました」


「あ! エクセル! おかえりなさい!」


 エクセル……こいつは確か……

 俺は静かにスマホをかざす。


 名前:エクセル

 Lv:35

 職業:魔人

 固有スキル:時間タイム

 追加スキル:①?

 ②?

 ③?


 そうだ。こいつは初めの中ボスの魔人。激強魔人のエクセルだ。


 この魔人が強すぎてみんながこぞってレベル上げをして挑んだ結果、ジャックが簡単に倒せてしまい、デビクエの調整ミスとか言われてしまったのだ。


 こいつ俺よりレベル高いの本当におかしいだろ……


「お、おかえり。エクセル」


「今回の戦いでレベルが35へと上がりました。どうされますか?」


「どうされるって……なにがだ?」


「何がって……レベルをジャック様に分け与えるかです」


 レベルを分け与える……? そんな事勇者側では出来なかったけど……


「あ、あぁ。今回は大丈夫だ」


「分かりました。今回はではなく、今回もですがね」


 このジャックと言う魔王。なんでこんなレベルが低いのか分かる気がしてきた。


 この魔王は恐らく仲間思いだったんじゃないのか。メイド2人もかなり慕ってくれている。こんなに弱い魔王なのに。


 ……まぁ、もう決まっちまったな。


 俺は転生してしまった。このデビルクエストと言うRPGの最弱の魔王に。


 やってやろうじゃんか……魔王ライフ!


 この時はまだ軽く考えていた。この魔王ライフの事を。


「ではそろそろ仕事があるので」


「私も料理の準備してきますね!」


「我も日が落ちるまで時間があるので、ダンジョンに戻ります」


「あぁ。みんな頼んだぞ」


 そう言ってティレイとアルイは扉を開け部屋を出た。エクセルはその場で転移魔法を使い、恐らくダンジョンへと戻って行った。


 俺はスマホを取りだし、操作を始める。


「確か……ここら辺でステータスが見れるはず……これだ!」


 このゲームの世界ではステータスが重要になってくる。その理由はHPが一律100と決まっているからだ。


 攻撃力が高ければ一気に削れるし、逆に防御力が高ければ攻撃をあまり喰らわない。


 HPが0になった瞬間、レベルがマイナス10され、コンテニューとなる。


 魔王を倒した時はレベルに関係なく死んだけどそれは何か違いがあるのだろう。


「あ、スキルの詳細だ」


 固有スキル:魔獣使いモンスターテイム

 一度に3体まで魔獣を手懐け、操ることが出来る。

 魔獣のレベルは使用者に比例せず、魔獣自身が経験値を得るか、使用者の経験値を分け与える必要がある。


「うーん。なんとも言えないなぁ」


 恐らく、追加スキルが出れば強さが段違いになりそうなんだが……これじゃまだモブだ。


 俺は右手を前に伸ばし、スキルを使い、魔獣を召喚した。


 ボフンッ!


 くぅーん

 ウホウホ


 その音と同時に現れたのは小さな狼とほっそいゴリラであった。


「どっちもLv13でスキルは無し……あの時と何ら違いは無いかぁ……」


 俺が落胆していると、くぅーん! と狼が飛びついてきた。


 ちょっと可愛いな……


「まぁ、名前でもつけよう。お前は……白くてふさふさな毛……ワイトだ!」


 くぅーん!


「お前は……ゴリラ……ゴリラ……リラゴだ!」


 ウホウホ


 こうして、魔獣に名前を付けた俺は一旦、スキルを解除し、魔獣を帰した。


 レベル上げが大変そうだなこれ。てか、魔王はレベルどこで上げるんだ?


「散歩でもするか」


 俺は魔王城を出て、散歩へと向かった。

 外の風景は何度か見た事がある。


 今、俺の中にひとつの感情が芽生えた。配信していたあの時も思った。


「魔王城って……何もねぇ……」


 1つ目の魔王城はダンジョンをぬけ、山の上にある。その為、娯楽というものが存在しない。


 かと言って、少し歩けば何かある、とかの次元でも無い。


 ダンジョンを抜けてからただひたすら山を昇って行くゲームへと変わるのだ。


 まぁ、そこにも色んな要素があって楽しかったんだけどな。戦いはしたかったよな流石に。


 しかも登りきった後、俺と戦うんでしょ? そりゃみんな萎えるわ弱すぎて。


 ……そういう事か。俺が弱い理由。経験値を得られる場所が近くに無いんだ。


 そんでもってエクセルの手に入れた経験値も貰ってないから……


 よし、目標を決めよう。レベルのだ。エクセルが35レベルって事だから……そうだな。まずそこを目指そう。


 魔獣のレベルもあと10は上げたいな。


 そう言えば、俺が配信でエクセルと戦った時はレベル36だったよな……


 そうなるともうすぐ勇者が俺のところに来てしまう可能性がある……か。


 その時、俺がジャックを倒した時の情景が思い浮かんだ。


「ジャック様!! 生きてください!!」


「ジャック様……どうしてこんなところで……!」


 ……ゾッとした。もう、現状あれはゲームでは無い。今は生きている。痛みもある。


 よし……生きよう。生きてメイド2人と慕ってくれる部下と生きていこう。


 と、まぁ決意し、部屋へと戻った俺だったが、重要なことを忘れていた。


「そうじゃん。レベル上げる場所ないんじゃん」


 今更エクセルに経験値を貰うのもダサいしな……なにか無いかな……なにか簡単に出来る……経験値稼ぎ……あ!!


 俺は急いでスマホを取りだし、あるアプリを開いた。


 これなら……魔王の俺でも。いや、俺だからこそだ。


 話題性抜群。これをやるのに持ってこいな人材じゃないか。


 俺はスマホを立てかけ、録画ボタンを押した。


「どうも! 魔王のサイ・ジャックで〜す!」









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