第3話 最高な日
初経験値を獲得した後、俺は直ぐにメイド2人とエクセルに報告をした。
「やりましたね! ジャック様!」
「ジャック様が遂に……レベルが……上がるなんて……」
「ジャック様。やはり我が尊敬するお方です」
「これもみんなのおかげだ。ありがとう。そして、これからもよろしくな」
俺が生前、配信者になると周りに言った時、全員に反対された。社会人の数少ない友達や兄、親にまで反対された。
確かにそれは仕方ないし、親からしてもちゃんと就職してちゃんと働いて欲しいに決まってる。
でも、俺は。俺の気持ちを理解してくれる人がいないと感じてしまったんだ。
そんなの俺のわがままでしかない。でも、でも。
その分、こっちの世界の人達は俺に優しかった。全部肯定してくれるし、大変な時は助けてくれる。
こんな俺を慕ってくれるし、尊敬もしてくれる。
「アルイとティレイは……レベル上げるか?」
「いえ、私はまだ大丈夫です」
「私も! ジャック様がたーっくさんレベル上がってからでいいですよ!」
「そうか。じゃあ……たくさん上がるまで一緒に居てくれよ」
勝手に欲が漏れてしまった。俺の周りになんて誰もいなかった。唯一の友達も俺が配信者になることを反対したときから、縁を切ってしまった。
でも、今はいる。俺の居場所ができた気がして、心地も良い。この居場所を失いたくなかった。
「何言ってるんですか! 私たちはずっとジャックと一緒ですよ! ね、ティレイ!」
「はい。私たちはジャック様のご恩は忘れてません。あの時、私たちを救ってくれたジャック様の」
「それで言えば、我もあの時、ジャック様が差し伸べてくれた手を取ったとこを忘れません」
俺が……救った? 手を差し伸べた? 俺にそんな過去があるのか……
「そ、そんなこともあったな。でも、まぁ……これからもよろしくな」
「「「はい!」」」
こうして、俺の魔王系デビチューバー生活は続いていく。
──────
夕飯を食べ、部屋に戻ってきたのは、時間にして夜の8時半頃。
普段の夕飯はティレイが作ってくれている。相変わらずメイドの飯は美味い。
「今日の動画はもうあげたから……明日の動画でも撮ろうかなぁ……」
動画のネタは全く溜まってない。いつも思いつきで撮って、ぶっつけ本番でいっている。
今日もネタを考える。その時であった。
コンコン
「あ、はい」
「アルイです。入りますね」
「あ、あぁ。うん」
いつもより強引な彼女は、ドアを開け、部屋に入ってきた。
その服装はいつにも増して薄く、ほぼ下着であった。
……ん? 何だこのイベント?
「ど、どうしたんだ……?」
「どうしたも何もないですよ」
そう言って部屋のドアを閉めた彼女は、ドア付近にある部屋の電気のスイッチを回し、部屋を暗くした。
待て待て。待て待て待て! これは誰でも分かる! この展開……もしかして……!!
ベッドに座る俺の元にさささっ、と小走りで来るアルイ。彼女の顔は本物の女の子であった。
ベッドへと俺を押し倒すアルイ。俺の腰あたりに馬乗りになりながら、アルイはシャツを脱ぎ、完璧な下着姿になった。
薄暗く、アルイの顔はうっすらにしか見えない。それでも分かるくらいに顔は赤く染っていた。
横になり、身動きが取れない俺に彼女は顔を近づける。
そして、唇が重なる。暖かい。ゲームの世界なのに。俺の俺はもう、既に戦闘状態であった。
「お、俺……忘れちゃってさ? これって……」
「もう。今日はそう言う設定にするんですか? 2週間に1回の私の最高な日ですよ」
耳元で囁かれた俺はもう、何も考えられなかった。
高校2年生以来の行為。思考よりも身体が主導権を握り、アルイとの行為をした。
そして事後。いわゆる賢者だ。この世界でもしっかり立つもんは立つし、出るもんは出た。
そして、2週間に1回の頻度でやっているのなら子どもの心配も恐らくないのだろう。魔法か何かだろうか。
部屋に備え付けのシャワーで身体を洗い流し、しばらくアルイとベッドで話をした。
「なんか……今日のジャック様……優しかったですね」
「そ、そうか?」
「はい。まさにジャック様の彼女になった気分でした!」
「あははは……それは良かったよ」
「じゃあ。明日も早いので部屋で寝ますね。今日もありがとうございました」
「え、あ、うん。おやすみ」
俺の部屋で寝ていけばいいのにとも思ったが、そんなこと言う勇気もなく、アルイは部屋を出て行ってしまった。
「……はぁ。彼女、か」
ベッドに横になり、目を瞑る。
彼女。その響きは俺の記憶を呼び起こそうとしていた。
「動画作るのは……明日でいっか……疲れたな……」
気絶するように俺は夢の中へと落ちて行った。
──────
「
なんだこれ。なんだっけ。目の前にいる彼女は……誰だっけ。
勇気? 誰だそれ。誰……誰……!!
「
「何その反応……早く……入れて?」
そうだ。思い出した。勇気も未来も。この場面も。
勇気。それは紛れもない生前の俺の名前だ。そして未来。その名は俺の元カノの名前だ。
そして、この場面。嫌という程覚えている。
この日、勇気と未来は初めてのアレをする。
なんでこんなに覚えているのか。
そう。この日はあの最悪な日の前日の事だった。
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