懺悔室
十余一
懺悔室
神よ、何故このような試練をお与えになるのですか。
私は七難八苦を望んではおりません。
四方を囲まれた狭い一室で、私は自分自身を抱きしめ、ただひたすらに祈りを捧ぐのです。
青磁色の
痛みに悶え、荒い呼吸に引きつるような悲鳴が混じろうとも、白い椅子に座し、ただ孤独に耐えるほかないのです。上擦った声は次第に
朦朧とする意識の中で、私は縋るような思いで神話を想起いたしました。そうして気を紛らわせ、浅ましくも救いを求めたのです。
遥かなる昔、この世に二柱の神が光臨なされました。
ユマリ神は道を通り、内なる世界から我々の世界へお見えになったのです。そのお姿は
しかし、二柱の神は、ほどなくしてお隠れになりました。そして内なる世界では新たな二柱の神が御生まれになり、再び我々の世界を
やがて二柱の神は、我々の世界に豊穣をもたらしました。
我々の祖先は旧時、僅かばかりの土地を耕し糊口をしのいでおりました。貧しい生活を送る人々に、ある時、神より啓示が下されたのです。
「水瓶を
人々はすぐに大きやかな水瓶を誂え、そこに神を御祀りいたしました。数か月ののち祈りは届き、神のもたらす恵みによって豊かな実りを得たのです。そうして我々の祖先は
ところが、二柱の神は過ぎたる力をも我々の世界に授けました。
地上に満ちた我々の祖先は、自らの繁栄を願うあまり余人を呪い始めてしまったのです。白い川に住む人々に、ある時、神より啓示が下されました。
「居を構え、
豊穣の神は、武略の神でもあったのです。
そうして人々は争い、互いを憎み、呪い合ったのです。赫く燃える薬によって、いったいどれほどの
時代は移ろい、我々は神のもたらす恵みと力に頼らなくなりました。そうして、いつしか神を敬うことすらを忘れてしまったのです。世界は開拓され、空白は減る。人々は全てを知り何事をも成しうると
しかし我々がどれだけ進歩しようとも、二柱の神から逃れることは不可能なのです。神々が道を通り、あるいは門を潜り、内なる世界から我々の世界を訪うことは、どうあっても止めることはできないのです。
そして今、門を潜らんとするマル神は激流のように荒々しく祟るのです。内なる世界に災厄をもたらし、こうして外側の私をも苦しめているのです。痛みに身をよじり、芋虫のように丸くなり、いったいどれほどの時が流れたことでしょう。四方を冷淡な壁と扉に囲まれたこの狭い一室で、私はこうして祈りを捧ぐほかないのです。
神よ、何故このような試練をお与えになるのですか。
神の御心に添わぬ
懺悔室 十余一 @0hm1t0y01
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