めんどくさがり屋で生意気な幼馴染のお世話を一日風邪でしなかったら、次の日に「捨てないで」と懇願された
海夏世もみじ
第1話
俺の名前は――
ごくごく平均的な者でどこにでもいそうな男子高校生だが、俺には美少女な幼馴染がいる。
「おはようございまーす、運送しにきましたー」
その幼馴染の家のインターホンを鳴らし、そんな言葉を放つ。
インターホンから『入っていいわよ〜、いつもありがとうね〜』という女性の声が聞こえた。この声は件の幼馴染'sマザーの声だ。
俺はその家に入り、階段を登り、『れみ』と書かれてある部屋をノックした。
「おーい、入るぞー」
返答なし。ということは入っていいということだ。
ガチャリとドアを開け、その部屋に入る。中はゴチャッとして散らかっており、ベットの上で寝息を立てている人がいた。
俺はそいつの頰を優しくペチペチしながら起こそうとする。
「おい、
「んゅ〜〜……」
こいつがその幼馴染――
腰あたりまで伸びるサラサラな銀髪を揺らしながら上半身を起こし、目をこすっている。ルビーのような深紅な目で雪のように白い肌。そう、玲美はアルビノなのだ。
容姿端麗、勉強しなくてもテストは高順位。そんなこいつにも、もちろん欠点はある。
それは……。
「……ゆーすけ、ん。おんぶ」
「やれやれ……。そろそろ自分で歩いて欲しいんだが」
玲美の欠点、それは〝めんどくさがり屋〟ということだ。
移動時は俺がおんぶ、食事の時はあーん、俺が声をかけなければ何もしようとしないナマケモノ美少女なのだ。
「いいじゃん、ゆーすけは私の胸感じてコーフンしてんだし」
「してないわ。何年の付き合いだと思ってんだ」
「それに、ゆーすけが役立つことなんて、こんぐらいしかない」
「なんだと? 他にもあるわい」
「例えばぁ?」
「えーっと……。いいから行くぞ! 遅刻するッ!」
「やっぱ無いんじゃ〜ん」
ニヤニヤと口角を上げる玲美をおんぶし、下の階へ降りる。
リビングまで連れて行き、椅子に座らせて朝ごはんを食べさせる。着替えは極力自分でやってもらい、早速二人で登校だ。
「よし、行くか」
「れっつらご〜」
まあ、いつも通りおんぶだけどな。
###
「優介、ちーっす」
「おう、おはよ」
自分のクラスに入るや否や、クラスメイトの友人に挨拶されたので、挨拶し返した。
「『眠り姫』の運送、お疲れサマンサッ!」
「はいはい、どーも。そしてお前はアニメ見過ぎ。目の下にクマができてるぞ」
こんなめんどくさがり屋でも美少女は美少女。眠り姫という異名もつけられたらしい。
男子からの人気はあるらしいが、俺を見ている限り、付き合いたいとは思わないらしい。
なぜならお世話が大変だから。
自分の席に座る前に、玲美の席に向かい、背中に乗っているコイツを降ろした。すると、机に突っ伏して寝始めた。
どんだけ寝るんだ、コイツ。
「にしても、毎日毎日ご苦労なこったなぁ。俺の肩もみを食らわせてやるぜッ! オラオラオラオラオラオラオラ」
自分の席に座ると、友人が労いの肩もみラッシュをしてくれた。けど効かないねェ。
「まあ慣れたさ。あー、でも……」
「ん?」
「明後日か明々後日あたりは忙しくなりそうだなぁ」
「何かあんの?」
「いや、まあ家具やら荷物やらを運ばにゃならんから」
「優介って多忙な人生送ってんなー」
先生が来るまで友達と駄弁り、朝の
その後も特に何もなく授業が進み、昼放課の時間となった。
「ゆーうーすーけー!」
「はぁ……行くか」
姫のお呼び出しをくらう。
俺は自分の弁当片手に玲美の席に向かい、横の空席に座った。
「んぁ」
「お前は鳥の雛か……」
玲美の弁当箱を渡された、口を開けていた。『食わせろ』という意思表示だ。
手慣れた手つきで弁当の具を箸で玲美の口に入れる。何度か繰り返していると、咀嚼することすら面倒になって、ガム噛んでる野球監督みたくなってる。
結局俺は、弁当を半分ぐらいしか食べられず、そのまま5、6時間目の授業に突入した。
6時間目はお腹が鳴ってしまった。
そして授業もすべて終わり、掃除の時間。
玲美は箒を持って廊下でぼーっと突っ立っている。案山子じゃないんだからちゃんと掃除手伝え。
「うおっ……とっ、と……」
「ん?」
不意に後ろを振り返り、玲美の方に視線を送ると、近くにバケツを持った生徒がグラグラとなりながら運んでいるのを見た。
なんとなく嫌な予感がしたので、俺はその人に近づく。
「どっ、どぅわぁっ!!」
なんとなく転んで水をぶちまけるだろうなと予知できていた。だが、水が向かう先は玲美だった。
「玲美!!」
「え……」
手をぐいっと引っ張り、クルッと180度回転する。そして、俺の背中は大洪水となった。
「〜〜ッ! 冷てェ――ッ!!」
「す、すみません!」
水をこぼしてしまった人が俺の背中を拭いてくれているけど、それ雑巾じゃねぇか! しかもなかなか年季入ってるやつッ!
「い、いや……大丈夫ですから、はい、行った行った」
これは体操服に着替えるしかないな……。
「ゆーすけ、ないすぅ。今後もヨロ」
「『ありがとう』の一言ぐらい聞きたかったな〜……」
「それを言うには及ばない。帰りの時の背中が失われかけてるし」
「お前なぁ……」
「体操服に着替えておいてね」
……心配ぐらいしてくれてもいいんじゃないのか? ま、もう慣れたからいいけどさぁ……。
「ってか、寒気やばっ。早く体操服に着替えてこよ」
体操服に着替えた後、俺はいつものように玲美をおぶって家まで送り届けた。その後は普通に帰宅。
ちなみに俺はマンションで実質一人暮らしだ。父親には先立たれ、母親は妹とともにアメリカだ。ちなみに余談だが、母親がアメリカ人なので、俺の目は緑色だ。
「へっくしっ! あーやれやれ……風邪を引かなければいいけどな」
――後日。
「ヴェッ! ゲホッゴホッ!!」
風邪をひきました。目眩と高熱、それに寒気が止まらない。
風邪なんて何年ぶりだろうか……。
「どりあえず……玲美に連絡……」
プルプルと震える手で文字を打ち、玲美に『風邪をひいたから今日学校行けない』と送信した。
送ったと同時に再び夢へ誘われた。
――実はこの時、優介の文字は玲美に送れていなかった。そして、画面を開いたまま眠ってしまった。
[あとがき]
数年前に短編として書いた作品ですが、なろうの方でなんか再浮上し始めたので連載版書き始めました。
見切り発車です、対よろ。
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