第9話

 真美さんとの話をし終えた後、灯矢くんにお呼ばれして彼の部屋に向かった。向かったのだが……。


「なんで姉貴もいんの」

「んー……そこにゆーすけがいたからー」

「お兄さん、そいつ窓から捨てましょう」

「うん、ダメだよ?」


 玲美が俺の膝を枕にし、堂々と転がっているいるのだ。

 風呂上がりでホカホカな玲美からはシャンプーの匂いが漂ってきて、いつもより強く温もりを感じる。

 さっき真美さんにあんなこと言ったから、ちょっと動揺している俺がいる……っ!


「姉貴、部屋から出てってくんない? いつも兄さんを独占してんだから今くらい邪魔して欲しくないんだけど」

「だめ。ゆーすけは私のもの」

「彼女でもないくせに」

「そっちこそ」


 俺を挟んでばちばちと火花を散らし合う二人。俺のために喧嘩をしないでっ!


「……だいたいさぁ、姉貴は女子力が無いよね。顔だけで他可愛くない。優介兄さんを少しでも楽しませれなさそうだよな。怠惰すぎて呆れてくる」

「……むぅ、何を言う。私だって女子力あるもん」

「へぇ? どこが? 家でゴロゴロダラダラしてお菓子つまんで、腹出しながら寝る姿」

「むぅ……! むぅ……!」


 少し頬が赤くなった玲美は、バタバタと足を動かして灯矢くんを攻撃しようとする。

 玲美は恥ずかしいと思っているのかもしれないが、もう数え切れないほど腹を出しながら寝ている姿は見たことあるんだよなぁ……。


「……もう部屋出る……」


 珍しく怒り気味の玲美はゆらゆら揺れながら立ち上がり、部屋を出ようとドアに向かって歩き出す。


「あれ、姉貴逃げるんだ? ふ〜ん? 兄さんの取り合いは僕の勝ちってわけだな」

「…………は?」


 超機嫌が悪い寝起きの時みたいなドスの効いた「は」が出た。

 灯矢くんなんでお姉ちゃんのことを煽るんだッ! 穏便に済まようよ!!!


「できるし……。私だって、女子力あるし。今から証明する……!」

「やって見せてよ。できるもんならさ」

「あ、あのー、二人とも? 落ち着いて……」

「「ゆーすけお兄さんは黙ってて」」

「……ハイ」


 この姉弟怖いよ。ちくしょう……俺が分身の術とか分裂できたらこんなことは起きないというのに!

 俺は黙っててと言われので、大人しく従うしかない。いかんせんここは八雲家で、俺は従わなければならないのだ……。


「じゃあ見せてもらおうかな、姉貴」

「わ、わかった……。じゃあ、はいっ。膝枕っ」


 俺の膝にまたゴロンと転がってくる玲美。しかし先ほどとは違い、赤く染まった耳が俺の目に写っている。

 灯矢くんの反応は……。


「もしかしてそれ? 兄さんを枕としか見てないって意思表示かな?」

「むぅ〜」


 辛口評価である。

 それに対し玲美は、秋のリスみたいにぷくぅーっと頬を膨らませていた。


「じゃ、じゃあはいっ」

「れ、玲美?」


 今度は俺の腰に手を回し、抱きついてきた。

 ふんすと鼻息を鳴らすが、灯矢くんは『はぁ……』と溜息を吐きながら首を横に振る。


「抱き枕にしか見えない。可愛げがないかなぁ」

「うぅ……むぅ……!」

「玲美、もう諦めよう。あと灯矢くんも、玲美を揶揄うのは程々に――」

「じゃ、じゃあ、もうこれ……っ!」

「ちょ、玲美ッ!?」


 なんと俺の膝の上に乗っかり、首に手を回して抱きついてきた。もちろんゼロ距離であり、柔らかいものも当たっているし、全体重が乗っててイロイロ危うい……!


「……ふーん。んじゃ、それがちゃんと継続してできるかな? まぁ見るのめんどくさいから、僕は風呂入ってくる」

「え、ちょ、灯矢くんッ!!?」

「……! ……とーや、謀ったな……」


 ――この時俺には見えていなかったのだが、灯矢くんが退出する際に、玲美に向かってウィンクをしていたらしい。

 全て、彼の策略だったと言うわけだ。


 ――バタンッ。


 灯矢くんは部屋から出て行ってしまい、つきっぱなしのテレビ画面と抱き合う男女二人が取り残される。

 数秒無言が続き、微動だにしていなかった。


「あの、玲美? 出て行ったからもう離れても……」

「だっ、ダメ……。このまま……。と、とーやにギャフンと言わせる……!」

「れ、レミサン……!?」


 ギューーッと締め付けが強くなり、ゴリゴリと俺の中の何かが削られていく音が聞こえてくる。


「わ、私……こーゆーのしたことないからわかんないけど……。か、かわいい……?」

「――ッ!!」


 潤んだ瞳でそんな質問をされる。

 俺は何かに心臓を射抜かれたような感覚がし、頭の中が玲美以外のことを考えられなくなった瞬間だ。

 そんな俺は、反射的に玲美を抱き締め返していた。


「〜〜っ!? ゆ、ゆーすけ……っ?」

「ご、ごめん! わかんない。わかんないけど……こうしたくなった……。それは、事実……です……」

「……えへへ、何それ……♪」


 結局、玲美にはっきりとした言葉で伝えることはできなかった。けれどこれは、特別な感情が働いて起こった衝動ということは確かだ。


 その後、結局灯矢くんが部屋に近づいてくる足音が聞こえてくるまで抱きつきあっていた僕らであった。



[あとがき]


12月のカクヨムコンテスト用の作品を書いておりまして、こっちにリソースが全然避けられなかったです。すみません!

不定期投稿ですまぬな……。

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