第10話

「それじゃ、もう遅いので俺はこれで」


 なんやかんやあって、結局灯矢くんとはゲームをすることなく帰ることとなった。

 玄関にて玲美もお見送りをしてくれているのだが、さっきのこともあり頰が勝手に赤くなる。それを見た玲美も、そっぽを向いて赤くなっていた。


「あらあら♪ ナニしてたのかしらね〜」

「「な、何もしてませんない!!!」」


 真美さんめ……変なことを言わないでほしいものだ……。

 春が過ぎ、夏が近づく夜道を歩きながらそんなことを考えた。



###



 ――翌日。

 なんやかんやあった昨夜のことを忘れることができないまま、いよいよ妹がこの家に本格的にやってくる日となった。


 ……とは言っても、妹が来るは夕方なので学校には普通に行く。


「玲美も久しぶりに会うんだから、少しはシャキッとしてみたらどうだ?」

「んー……? 今更」

「まぁ確かにそうだけどさ……」


 今日は昨日と違い、少し前と同じように背負いながらのの登校だ。流石に二日連続とはいかなかったものの、自力で登校できたのは大きな躍進だろう。

 勝手に一人で感動しているうちに学校に到着し、玲美を席に座らせる。


 いつも通りに朝のお役目は終了して自分も席に着き、玲美もウトウトし始めていたのだが……今朝はそれを許してはくれなさそうだ。


「玲美ちゃん、だよね? ははっ、おはよう」

「…………だれ」


 玲美の席の前には、煌びやかなオーラを発する中性的なイケメンが立っていた。ニコニコとしているイケメンに対し、玲美は心底面倒くさそうに溜息を吐く。

 少しモヤッとしたものが胸の中で渦巻く。気になった俺は、友人の竜太に話を聞くことにした。


「なぁ竜太、あれ誰だ?」

「おん? ヘッヘッヘ……愛しのハニーがとられてご立腹かぁ〜?」

「……フンッ!!!」

「痛ァーーッ!!! チョップすんな!!!」


 ……竜太曰く、玲美に話しかけているあいつの正体は津江つえあきらという隣クラスの人らしい。

 黒髪に青い瞳をしているイケメンで、女子からの支持が凄まじいとのこと。


「晶とかいうやつ、王子とか崇められてるらしいが……あの二人が並ぶと様になるな!」

「そうか? 俺には見えないけどな……」

「なんかアイツ、八雲のこと狙ってるとかいう噂聞いたことあるぜ? 掻っ攫われてもしんねぇぞ〜」

「うーん……」


 あの眠り姫様のダルがりさに呆れてすぐ離れるだろう。――そう安易な解釈をしていたのだが……。


「玲美ちゃん、遊びに来たよ♪」


 授業の合間の休み時間にやって来たり。


「お昼ご飯だね〜」


 昼休みに来たり。


「起きてる玲美ちゃんってほんとに珍しいよね!」


 体育の授業中にも玲美に会いに来る始末であった。

 津江の相手に疲れたのか、授業が全て終わった頃にはぐっすりと机に突っ伏して眠っている。


「ほら、妹迎えに行くぞー」

「うゔ、ん〜……おんぶ……」

「はいはい」


 玲美は腐っても美少女だし、最近は何故か起きている時間が多くなったしなぁ。他の男子から目をつけられるのも必然的なものなのだろう。

 ……けどなんか、やっぱりモヤモヤするような……。


 玲美をおぶるや否や、寝息を立てて寝始めた。そのまま帰宅しようとしていると、突然後ろから話しかけられる。


「――雨音優介くん、だったかな。ちょっといいかい?」


 王子様こと、津江晶が引き止めていた。


「えーっと、なんか用ですか? 晶さん」

「あぁ、僕の名前知ってたんだ。まぁどうでもいいか。単刀直入に言うけどさぁ……なんで君、ずっと玲美ちゃんの邪魔してるの?」

「は、はぁ? いきなりなんですか?」


 唐突にそんなことを言われたが、なぜか完全には否定することができないだろうなと心の中で自然と感じていた。

 少し冷や汗が垂れる感覚がする。


「君も本当は分かっているんだろう? ってさ」

「っ……。でも俺は」

「でも俺は、何? 世話しないといけない? 自分がいないとダメ? ……それはさぁ、君が玲美ちゃんの成長する機会を奪っているだろう? しかも君はよく『自立してくれー』とか呟いているみたいじゃあないか。そこんとこ、どうなんだい?」


 言い返そうにも、魚の骨みたく喉の奥で言葉がつっかえてうまく話さない。

 確かに、俺は玲美の自立する機会を奪っているかもだし、交友関係とかも俺と言う壁で邪魔になっている可能性も大いにある。


 じゃあ……じゃあなぜ俺はこの関係を続けているのか?


「黙ってちゃあ何も解決しないんだけどさぁ。それじゃ、答えやすい質問に変えようか。――

「俺は……」


 自立させたい?

 みんなと仲良くしてほしい?

 めんどくさがり屋じゃなくなってほしい?


 ……どれも違うな。

 そう思っているならば、こんな関係を幼い頃からずーっと続けたりはしない。


 これは多分……ただの俺の欲求を押し付けているに過ぎないことだ。


 どうせ玲美も寝ているし、周りに人もいないから、言ってしまおう。


「俺は多分……いや、多分じゃない。俺は――

「…………へぇ」


 なんだか玲美がピクッと動いた気がするが、深い眠りについているはずだし大丈夫だろう。


「独り占めしたい、か。君のどういう感情がそうさせているのかな?」

「それは……まだわからない。から、ハッキリさせようと考えている最中だ」

「その考えている間はどれだけかかるのかな? 数日? 数週間? 数ヶ月? それとも数年? 君たちが後戻りできない時間まで進んでしまったらどうするつもりなのかなぁ」


 ギュッと玲美が抱きつく力が一瞬強くなった気がして後ろを振り向くが、寝息を立てて眠っている。

 その寝顔を見たからかはわからないが、なぜか自分の中で決心がついた。


「その時は、俺が責任を取る」

「……どうやって責任を取るの?」

「――生涯尽くすことを誓うよ」


 曇りなき眼でそう言い放った。

 晶は数秒俺の目をジッと見つめた後、「ぷっ」と笑って張り詰めた空気を壊す。


「あははっ! いいね〜、君ら、超良いよ!」

「え、は、はぁ?」

「その言葉が聞けて僕も安心したよ〜。んじゃ優介くん頑張りたまえ! ……玲美ちゃんキミも、ね」

「え?」


 後ろを再び振り返るが、相変わらずぐーぐーと眠っている。


「(……あれ? でもなんか頭から湯気が出てるような……。しかも耳が茹で蛸みたいになってるな。……いやまさか、熟睡モードで起きるわけないない)」


 そう自分に言い聞かせながら、この場から立ち去る晶の背中を眺めた。



[あとがき]


ひっっっさびさの投稿だね!

ごめんなさい!


今回は優介が抱く感情が本格的に進み出す話でしたー。

次回は玲美視点です。ネタバレですけど今回の玲美、途中からバッチリ起きてます(ドンッ!)

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めんどくさがり屋で生意気な幼馴染のお世話を一日風邪でしなかったら、次の日に「捨てないで」と懇願された 海夏世もみじ(カエデウマ) @Fut1

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