第8話

 夜ご飯の時間となり、膝枕で熟睡している玲美を起こして椅子に座らせた。

 こうしてみんなで囲んで飯を食うのはとても嬉しいことだ。


「ゆーすけー……眠いから食べさせて……」

「夜ご飯くらいは自分で食べろ」

「ちぇ……」


 不貞腐れながら箸を手に取り、亀並みのスピードで料理を口に運んでいる。もしサバイバルに繰り出されたら、真っ先に死ぬだろうと心の中で思った。

 和気藹々の雰囲気で食事をしていると、弟の灯矢くんがこんなことをぶっ込んで来た。


「そういえばだけどさ、優介兄さんと姉貴って付き合ってんの?」

「ングッ!」

「む……」


 思わず口に含んでいた料理を吹き出しそうになったが、なんとかこらえて飲み込んだ。


「ど、どうしたの急に!」

「いや……だってこんなに世話してんだし、好きだからなのかなぁって」

「いやいや! 付き合ってないよ! ビックリさせないでよ灯矢くん」

「そうなんだね」

「…………」


 この時、少し寂しそうな表情で黙々と料理を食べる玲美と、何か考え込む真美さんに気がつくことはできなかった。


 料理を食べ終えた後は各々が自分のすることを決めて行動していた。


「僕ゲームのセットしてくるよ。一緒にやろうね」

「俺は仕事の件で少し部屋にこもる」

「(ままに脅されて本当はめちゃくちゃ入りたくないしめんどくさいけどやらなきゃいけないから仕方なく)お風呂はいってくる……」

「優介くん、皿洗い手伝ってくれるかしら?」


 僕は真美さんにお願いされ、一緒に皿洗いをすることになった。


 この部屋からは三人が出て行き、真美さんと二人きりになって皿がぶつかり合う音と水がシンクの上で踊る音しか聞こえない。

 少し間が空いたと思うと、真美さんは僕に向かってこんなことを言ってきた。


「優介くん、お願いがあるの」

「はい? なんですか?」


 真美さんは口を開き、こう言い放つ。


「――もう玲美に近づかないで欲しいの」

「えっ……?」



###



 ―玲美視点―



「……え……」


 忘れ物をしたからリビングに戻ろうした途端、中からままがそんなことを言っているのを聞いてしまった。

 なんで……サポートするとか言ってくれてたのに……。


『えっと、なぜ、でしょうか……』

『これ以上、優介くんに迷惑をかけたらいけないと思ったのよ。あの子もそろそろ優介くんから自立しなきゃだし』

『そう、ですか』


 どうしよう……せっかくいー感じにゆーすけをあたふたさせられたのに、このままじゃ離れてっちゃう……。

 今すぐ飛び出して静止させたい。けどこのドアノブが怖いくらい重い。もしゆーすけも望んでいたらどうしようと思うと、手が震えてくる。


『真美さん。俺って昔から少しケチですよね』

『え? あ〜、確かにそうねぇ。それがどうかしたの?』

『俺は、無駄だと思うことはすぐに切り捨てます。それに、なんの感情も持たずにずっと世話をするほど馬鹿じゃありません!』

「――っ!!」


 ゆーすけの言葉に熱がこもり、ドア越しでもそれが伝わってくる。


『最近は慣れすぎて忘れちゃっていましたが、最近とあることがあって思い出しました。この感情の正体はまだ……少し時間が欲しいんです。

 気持ちが整理出てからじゃなきゃ嫌です。真美さん、どうかまだ……玲美と一緒にいさせてください。このままじゃ絶ッ対に引き下がれません!!』


 なぜだろう、目が熱く鳴る感覚がする。心もいつもより跳ねている。嬉しさが心から込み上げてくる。

 面倒だ……。


『……優介くん、Noだなんて言うはずないわ。私の娘を預かってくれてる恩人を仇で返すなんてしない。元は優介くんのためのつもりだったから。

 私からもお願いね、玲美をお願いするわ。その時が来たら、この話をまたしましょう』

『はい。ありがとうございます』

『うん、こちらこそありがとうね』


 あー……本当に面倒くさい。

 この高まる鼓動も、火照る頬も、勝手に釣り上がる口角も、脳から分泌される幸せホルモンも!


 ――恋を自覚すると、こんなにも面倒で幸せだったなんて……!


「ままの馬鹿……! いくらなんでも急ぎすぎ……!」


 私は足早にこの場を立ち去り、シャワーを浴びるのであった。



[あとがき]


筆が乗ったので1日あけてまた投稿しました。

しかし投稿頻度が上がると言うわけではないです、すみませぬ。

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