第7話

 玲美のお母さんから夜ご飯を一緒に食べないかとお呼ばれして来たのだが、なんか玲美から恥ずかしい言葉が発せられた気がする。


『――ゆーすけは一生、私に仕えてればいい……っ!!』


 うーん……。いつもの玲美から考えたら、『死ぬまで私に尽くして働き続けろ、下僕』って感じだけど、今回のはなんか違和感があったな……。

 玲美はもしかして俺の事が…………っていやいや! 自惚れるんじゃあないぞ俺。


 カチャカチャと料理の時に使った道具を洗いながら、一人で自問自答を繰り返していた。


「ただいまー……ってあれ、優介くん! 来てたのかい!」

「え、優介兄さん来てんの? やった」

「あ、蓮也れんやさん、灯矢とうやくん、お邪魔してます」


 玲美のお父さんと弟が帰ってきて、俺を見るなり嬉しそうな顔をする。昔からの仲なので、第二の家族並みに仲が良いのだ。

 ちなみにだが、玲美のお母さんの名前は真美まみだ。


「優介兄さん、晩飯食ってくの?」

「うん、食べてくよ」

「じゃあさ、また一緒にゲームしようよ。この前の続き」

「もちろん」


 灯矢くん、昔は元気溌剌で僕の後を追いかけてきて可愛かったけれど、今ではめちゃくちゃイケメンに育って若干びっくりした。

 落ち着いた性格になったが、変わらず僕に懐いてくれてる。


「おい灯矢! 優介くんは俺の話し相手になってもらうんだぞ! 優介くんを独占するなッ!」

「……いつも父さんの方が独占してんじゃん。優介兄さんに迷惑かけてんのそっちでしょ? 邪魔しないで欲しいんだけど」

「なんだとォ!? お前の方こそ無理やりゲーム誘ってるじゃないか!」

「僕は兄さんから勧められたゲームやってんの。一緒にやんのは楽しいに決まってる。兄さん、うるさくない僕の部屋行こうよ」

「ふ、二人とも落ち着いて……」


 仲が良い……というか、良くなり過ぎてしまったのだろうか? 俺が家に来る度に、俺の取り合いで火花が散るんだよなぁ……。

 少しヒートアップし出した口論によって、爆睡していた玲美は「ゔーん」と唸り声を出しながら起き始める。


「あらあら♪ 私も優介くんにして欲しいことあるのよね〜。服を新しく作ってみたから着て欲しいのよ」

「なんでわざわざ兄さんに」

灯矢あなたが着てくれないからでしょ〜?」

「…………」


 こうなったらもう俺には手がつけられない。

 家族三人が延々と口論をして、結局時間が過ぎてみんなが損をする。せめて俺が分裂できたらよかったが、まだ人間なので無理。


「……ゆーすけ、ん」

「え? 玲美なんだ?」


 起きた玲美がちょいちょいと手招きをし、ソファに近づける。そして玲美は隣をポンポンと叩き、座るように催促をした。

 よくわからないがとりあえず座ると、ゆらゆらと頭が揺れて僕の膝に倒れこむ。


「ふふ……言ったでしょ。私に仕えていればいい。どうせ長引くんだし、一緒に寝よ」

「え、これ……膝枕……」


 玲美は自分が持っている最高級枕が好きだ。膝枕は昔『寝心地悪いから嫌い』と言ってからしなくなったはずだが……。

 僕に頭を預けてコロコロと転がす。途中目が合うと、にへっと可愛い笑みを浮かべる。


 やはり、今までの玲美と何かが違うッ!

 くそっ、こんなことで血を吐きそうになるとは思っていなかった。可愛すぎてビックリしたぜ……。


「ゆーすけ」

「な、なんだ?」

「なでなで、して?」

「え、それは……」

「……あぅぁー、今朝のこと、まだ傷ついてるなー」

「ヴッ……。わ、わかりましたよ……」

「……♪」


 今朝の弱みで、命令に従わざるを得なかった。

 膝枕される玲美の頭を優しく撫でると、ゴロゴロと猫のように喉を鳴らす玲美の幻覚が見える。それくらい幸せそうな顔をしていたのだ。


「スヤァ……」


 あれよあれよと言う間に、再び夢の世界へと旅立つ。どんだけ寝るんだこいつ。


「あら、取られちゃったわね♡」

「くっ! 口論してるうちに玲美に!」

「……なんか、優介兄さんと姉貴の距離変わった気がすんだけど」


 他三人からの視線に耐えながら、僕は夜ごはんの時間を膝枕しながら待ち続けた。



[あとがき]


気づいていると思いますが、玲美ママの喋り方を変更させていただきました。


灯矢くんは作者の中で結構お気にのキャラになりそう。

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