第6話

 ―玲美視点―



「じゃあな玲美、また明日」

「ん」


 放課後、私はゆーすけにおんぶをされながら自分の家まで送ってもらい、お別れした。

 昨日と今日は色々あってものすごい疲れた……。帰ってご飯できるまで寝――


「――いや、でも……」


 そこで私は立ち止まる。

 一旦はゆーすけをあたふたさせて愉快な姿を見ることができた。けど、あの鈍感なゆーすけはこの程度で揺らぐはずはない。

 作戦を練らないと……。けど、めんどい。だから、


「ままに聞こう」


 自分で考えるつもりなんか毛頭ない。だってめんどくさいから。

 階段を這い蹲りながら降りて、キッチンで鼻歌交じりに料理をしているままに話しかけた。


「ままー」

「んー? どうしたの?」

「相談」

「あらあら、何の?」


 包丁をまな板に置き、こちらに振り向く。


「ゆ、ゆーすけについて……。どーしたら、もっと意識してもらえるかなって……」

「えっ? あら、あらあらまぁまぁ♪」

「もぉ……何……」


 妙にニヤニヤとして私の顔をジロジロと見つめるお母さんは、とても腹が立つ顔をしてる。

 しばらく私の顔を見続け、その後すぐにスマホを手に取り誰かに電話をし始めていた。


「あ、もしもし優介くん? 今晩はうちでご飯食べに来ないかしら〜? 妹ちゃんのお引越し作業疲れてるだろうから料理振る舞うわよ」

「ちょ、まま!?」

「うん? 迷惑じゃないわよ、玲美も来て欲しいって駄々こねてるわよ〜」

「言って、ないし!!」

「わかったわ、じゃあまた後でね〜」


 ピッと通話を切り、圧倒的光エネルギーを放出している笑顔を向けてきた。

 相談をしにきたはずなのに、なんでうちにゆーすけが来ることになったんだろう。ゆーすけは一人暮らしだからよくうちに来るけど、今来られたら……ちょっとヤ。


「まま……何考えてる……」

「うふふ♡ 来てから私がサポートしてあげるから安心してちょうだいっ」

「安心できない……。ままに聞くんじゃなかった……」


 不安を抱えたまま数分待っているとすぐにインターホンが家に響き、ビクッと心臓が跳ねる。

 ままがルンルンとしながら玄関に行き、ゆーすけを迎え入れた。


「おじゃします。……さっきぶり、玲美」

「ん……」


 遠慮がちに私を見て笑うゆーすけ。私は諦めた様子でソファに寝そべっている。

 サポートすると言っても、何もしたくないんだけど。もうままと話すので体力が赤ゲージ……。


 ふわぁ、と一度欠伸をすると、ゆーすけがままの方に近づいて話しかけていた。


「料理手伝います」

「え〜? 別にいいのに。でもせっかくだし、お願いしちゃおうかしら?」

「任せてください」

「優介くんは昔から家事が得意で助かってるわ〜♪ 少しはうちの娘も見習ってほしいものね」

「……むぅ……」


 いきなり矛先がこっちに向くけど、知らんぷりしてクッションに顔を埋める。


「いつも玲美のこと面倒見てくれてありがとうね〜? こんな怠惰な子を見てくれるの優介くんくらいしかいないから」

「そんなことない……とは否定できないですね……」

「本当に、ね〜♪」

「えっ!?」

「なっ……!!」


 いきなり爆弾を落としてきた。

 頰が少し熱くなり、ままに噛み付く。


「何言ってるのまま……! そんなの――」

「〝そんなのあるわけない〟って? 毎朝起こしてもらって、ご飯食べさせてもらって、学校に運んでもらって、ず〜っと一緒にいて何でもしてくれる優介くんは嫌ってことなのかしら?」

「うぐっ……」


 わかってる……。本当はゆーすけのことが好きだけど、照れ隠しで否定してしまっていることを。

 けどままは、私が逃れられない事実を羅列させることで真実を口に出させようとしてるんだ。……サポートというには、やり口が強引すぎる……。


「あの、玲美、別に俺は――」

「むんっ! ゆーすけは一生、私に仕えてればいい……っ!!」

「え、お、おう……?」


 逆に、ずっと一緒にいてくれなきゃ困る。

 責任は取らせてやる。ゆーすけ無しじゃ生きていけなくなってるから……。


 ぷいっとそっぽを向いてソファに再び寝そべる。

 今は赤い顔を沈めことに集中するために一眠りする。どうせ……ままのことだから、まだ何かしかけるつもりだろうし……。


 そうして、私は眠りについた。

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