夜の海の中
西しまこ
海の中の二人
躰には、電流が流れるスイッチがある。
自分では手が届かないスイッチもある。
それを、探し合う。指で。舌で。
吐息、電流、飛んで行く意識。ぐるぐるして溶けていく、心と躰。
「みのり」熱い息で、陸が言う。
「ん」
「みのり。……おれたちって、何?」
「何って?」
「どんな関係?」
「んー、セックスする関係?」
「……それだけ?」
「どんなのがいいの?」
「それは……」
みのりの指が陸の躰を這っていく。唇から舌を出す。「それは?」
「……みのりは、おれのこと、どう、思っているの?」
「んー、気持ちのいい関係?」
陸は覆いかぶさっていたみのりを下に組み敷くと、荒々しく首筋に唇をつけた。
ぞわり。電流がみのりの躰を走り始める。
「だって」されるがままになって、息を荒くしながら、みのりは言う。
「だって、いろいろしてみないと、好きかどうか分からないもの」
陸はみのりの躰中を、探る。手で指で、唇で舌で。
ショートする。
「陸、陸、お願い」
陸はみのりの言葉に応えない。
「ねえ、陸、もう」
「おれのこと、好きだと、言え」
「……好き」
みのりの手が陸を求め、陸の背中に爪を立てる。快楽の波が二人を包み込み、どこまでもどこまでもゆく。意識は遠くへ飛んでいき、二人の境界線が分からなくなる。
「……キスしていい?」
陸が言って、みのりは顔を陸に近づけた。
唇が触れ、お互いがお互いの味を知る。
「ねえ、どうして、前はキスしちゃ駄目って言ったの?」
「キスは好きになってからしたいの」
「……好きなの?」
みのりはそれには応えず、陸の唇に唇を寄せ、舌で舌を絡めとった。
「……うん、好き」
「何が? セックスが?」
「うん。それから、全部が」
「みのり――おれも好きだ」
お互いの電流が流れるスイッチを探る。
手が触れ唇が触れ、指が探り舌が蠢く。
電流が走り、魔法にかかったように、溶けて絡み合う心と躰。
まるで暗い海の中にいるよう。心も躰も液体となって、暗くてあたたかい海の中で混ざり合う。
ずっとこのまま、夜の海の中にいたい。
海の中で、身体以外は何も持たず、剥き出しの心で。
他には何もいらない。
了
一話完結です。
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夜の海の中 西しまこ @nishi-shima
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