いざなう紅き胎動と、残された狂気という名の退廃美

ーー本当はこの子が生きるはずだった。
不妊治療、死産を経験し、次第に精神が擦り減っていく妻の莉絵。彼女を励まそうとペットを飼うことにした夫の裕人。この物語は、諦めきれないわが子を思う歪な執着が、数奇な運命を辿る狂気めいた退廃的ホラーだ。惰気満々として家事をしなくなった妻は、ペットをまるで我が子同然のように溺愛し、朽ちるように堕落していく。
淀んだ瞳。射抜く憎悪。
変わり果てていく妻の姿と散乱して汚れていく部屋とが異臭の如く符合し、破滅へと向かう精神世界が、次第に壊れていく日常をリアルに描き出す。
どこか惹かれる退廃的な美しさ。当て嵌め難い形容が不気味に五感を狂わせる。
狂気ーーまさに生き狂いとも言える戦慄が、そこに生まれた。
その凄惨な残渣と、無限ともいえる跋扈たる食欲は直視できないほどの脅威にまで膨れ上がる。それは体感として仄暗い穴の中からそっと震える瞳で覗き込むようだ。
そして訪れる衝撃のラスト。
孕ませし紅き胎動は、わが子のように憩わせる。
愛でて、さすって、紅く笑う、静かなる赤子のように。

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