煙の満ち引き

 一読、いつまでも心の中に鉄臭い煙が漂い続ける内容だった。

 人生の見通しを、半ばぶつ切りにするような感覚で諦勧する主人公には作者(木古先生、以下同)が自家薬籠とするニヒリズムであふれている。

 にもかかわらず、地下の食品区画から地上へとでたりはいったりする場面……それは必然的に主人公の心情、または無意識を暗喩するのだが……に一抹の希望を感じてしまう。かと思うと、噴水が下水につながるという『現実』にふたたび襟首を捕まれる。

 かつて、芥川龍之介は『人生を銀のピンセットでもてあそんでいる』と評されたそうだ。差し詰め作者は鉄の斧で気まぐれに殴っているというところか。

 いずれにせよ、不可知論の海に鎮座する暗礁のごとき孤岩を想像させる完璧さである。

 必読本作。