玉菊灯籠

海石榴

1話完結 玉菊灯籠

 吉原の角町すみちょう万字屋まんじやという妓楼みせがあった。

 その万字屋に、ひとりの美しい花魁がいた。名を玉菊という。


 玉菊は美しいばかりでなく、えもいわれぬ愛嬌があった。心配りのこまやかさでもかなう遊女は絶無で、客は無論、廓中の人々からも親しまれ愛されていた。 


 しかしながら、佳人薄命という。

 玉菊は享保11年(1726)、忽然と儚くなった。わずか25歳であった。吉原の灯がひとつ消えた。

 天は佳き人ほど早く召す――人々はそう嘆き、大きな喪失感に苛まれた。


 玉菊逝って二年後のたままつりの日、遊郭の軒ごとに華麗な灯籠が吊るされた。玉菊を忘れかねる廓の人々が、その面影をしのんで吊るしたものであった。それが明治の世まで150年余、吉原名物の灯となった玉菊灯籠である。


 松魚かつおにて ひとつ呑むべし 玉菊忌(酒井抱一)


 ――了 

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玉菊灯籠 海石榴 @umi-zakuro7132

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