人魚たちは歴史に学ぶ【なずみのホラー便 第148弾】
なずみ智子
人魚たちは歴史に学ぶ
歴史は繰り返されます。
そして、悲劇も繰り返されるのです……と続けたいところですが、今回のお話の主人公となる人魚たちは、数百年前、王子様への恋を実らせることなく泡となって消えてしまった人魚姫のことを幼い頃より聞かされていたため、その悲劇の歴史を二度と繰り返すまいと決意していました。
私たちは皆、王子様が好き。
王子様を愛している。
王子様を私だけのものにしたい。
けれども、あの泡になって消えてしまった人魚姫みたいな最期は絶対に迎えたくない。
何か他の方法があるはずよ。
13人もの人魚は連れ立って、海の魔女の家を訪ねました。
ちなみに、この数百年の間、海の魔女も何回か代替わりしていました。
今の海の魔女はやってきた人魚たちの話というか要望を聞いて、呆れた顔をしました。
「あんたら、普段は仲が悪いくせに群れになってやってきたから何かと思えば………真に歴史に学ぶつもりなら、人間などに恋をしないのが一番だと思うけどね。しかも王子相手になんてさ。種族差だけじゃなく、身分差ってのも結構きついんもんだよ。恋ならこの海の中でだってできるだろ? 数は圧倒的に少ないが男人魚もいないわけじゃないし、多少不細工かもしれないけど半魚人にだって良い雄はいるってのに」
13人の人魚たちの要望は自らが人間となって陸地にあがるのではなく、王子様に人魚になってもらおう、というものだったのです。
やっぱり実家が近い方が心強いし、子育てだっていろいろ協力してもらえるし、とも彼女たちは言っていました。
いったん諌めた海の魔女でしたが、彼女たちのあまりのしつこさにとうとう根負けしてしまいました。
「……分かったよ。私が王子を人魚にする手術をしてやるよ。王子をここに連れて来な。この海の家は奥にある手術室も含めて、全体的にユニバーサルデザインを取り入れていた構造にしているから、人魚でも人間でも呼吸することが可能だ。だが、あんたらがどの辺りで王子が乗った船を沈没せるのかは知らないけど、普通の人間ならまずここに来るまで息が続かないだろう」
そう言った海の魔女は、13個の黒蝶真珠を持ってきました。
「この黒蝶真珠には私の魔法をかけてある。これをギュッと握って念じれば、ここまでものの3秒さ」
海の魔女にワープ道具までも支給してもらった13人の人魚たち。
そして、ついに次の満月の夜、王子様争奪戦の火蓋が落とされました。
外遊のため隣国へと向かっていた王子様の乗る船を沈めた人魚たちは、一斉に、さらには我先にと海面へと投げ出された王子様の元へと急ぎました。
私たちは皆、王子様が好き。
王子様を愛している。
だけど、王子様を自分のものにできるのは、たった一人だけよ。
この戦いだけは絶対に絶対に絶対に負けられないんだから!
激闘の末、1人の人魚が優勝の座を勝ち取りました。
相当に苛烈なる戦いだったのでしょう。
黒蝶真珠に念じ、海の魔女の家へと3秒でワープしてきた時の彼女の髪はグチャグチャで、鼻血を出しているうえに唇も切れていました。
揉み合ううちに胸当ての貝殻も外れてしまったらしく、両の乳房も完全に丸出しです。
そんなことも構わず、彼女は海の魔女へと懇願しました。
「王子様を連れてきたわ! 早く王子様を人魚にして!」
でも、海の魔女は黙って首を横に振りました。
「……いくら私でも死体損壊はできないよ」
嗚呼、なんとお気の毒な王子様。
13人の人魚たちの誰一人として、最初は一旦協力しあい、海の魔女の家に王子様を連れて人魚に改造してもらってから、王子様争奪戦を再開したほうが良いという考えに至らなかったのでしょうか?
さらに、彼女たちの激闘は、海中に引きずり込まれた王子様の息が続く間に終わったのでしょうか?
人ならざる者たちの凄まじい力であちらへこちらへと引っ張られ、取り合いをされた王子様の手足は果たして千切れずに済んだのでしょうか?
王子様は、海の魔女ですら顔を背けたくなるほど凄まじい死に顔でありました。
(完🧜♀)
人魚たちは歴史に学ぶ【なずみのホラー便 第148弾】 なずみ智子 @nazumi_tomoko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます