ドルメンを訳し(?)終わって


 皆様、『ドルメン』を最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 ヤンさん、チョコレートストリートさん、木下望太郎さん、るしあんさん、その他こつこつお読みいただいた皆さんのお陰で無事に最後まで翻訳することができました。


 まあ、翻訳と言っても G◯◯gle さんに頼りっきりだったし、途中からは原文との突き合わせも大雑把になってしまったので、スペイン語はほとんど上達しませんでした笑 ただ、スペイン語を読むのに抵抗は無くなったし、語学学習ソフトの LingQ に山程のレッスンは作れたので、収穫はあったと言えます。以降はぼちぼちそのレッスンを続けていこうと思っています。


 あと、四四〇ページの小説を訳すのは無謀だということもわかったので、将来勉強のために何か訳すとしたら、せいぜい三十ページくらいの本にしようと思います。


 それでも、『ドルメン』の本を本棚で見るたびに、「ああ、この本を読もうと思って買ったんだよな……💦」と思わなくて済むのは素晴らしい気分です。皆さんのお陰で一冊スペイン語の本を読み切ることができました。本当にありがたいです。五体投地でお礼申し上げます。



 また、『ドルメン』の小説自体の感想もちょっと書かせてください。

 連載中にもいろいろツッコませていただいたんですけど、ちょっとこれ、ツッコミどころありすぎじゃないですか?


 あらすじとしては古代の墳墓であるドルメンが持つ自然のエネルギーを崇拝するドルメン教団のメンバーたちが、教団の大僧正となることを争って、七人の生贄の儀式を行うというものです。彼らは、生贄にしたものの能力を殺した方が引き継ぐことができるという考えを信じていて、七人目には最高の能力者である主人公のアルタフィを生贄にして、その能力を得ようとします。


 でも、その割にアルタフィの能力、大したことないですよね? ほかの人が何をしていたか(過去のことのみ)ちょこっとひらめいたりするだけで、そんなの普通に勘のいい人だったらできるのでは? そんなことより、危険な目に繰り返し会うんだから、自分の身を守れるような将来のひらめきの方が大切じゃないでしょうか。


 お祈りして子宝を授けることができる能力だって、アルタフィを殺してまで欲しい能力でしょうか。しかも、百パーセントばっちり! って理由でもないし……。その能力を得た代償として若返りが必要になり、若返るには幼女を生贄にしなくてはならない、というのもよくわからない。大して役に立たないひらめきのために、そんな老化してしまうんだったら、そんな能力要らんわって思ったアルタフィ母は正しかったと思います。それに若返りたかったら、ヒアルロン酸注入とか糸リフトとかプラセンタ注射のが安全でお安いし、確実じゃないの……と思ってしまうのは現代病に侵されている証拠でしょうか。


 あと、アルタフィの家系は一子をもうけるだけの女系家族です。生贄にしてしまったら、もう次ないじゃないですか。現在に至る前に、既に死に絶えてそうです。


 それから、ジョン ボイルとキム フーディンがキャラクター的に被ってるのが気になります。ジョンがスピ系でアルタフィに「君には特別な能力がある……」とか言い続けてる横で、フーディンが「そんなのは全部トリックだ」とかディスってる割に、「ドルメンには未知の自然のエネルギーがあるんだ」とか後に熱弁を振るってるのは、キャラ的に矛盾してませんか? だったらジョンは無しでフーディンだけにして、ちょっとスピってる変なヤツと最初は思っていてもドルメンの秘密を教えられてアルタフィが見直す -> フーディンもアルタフィの気を引く使命があったので成り行きで一夜を過ごした事にすれば、子供もできて辻褄があったと思います。


 それにジェーンが大僧正の地位を巡って、シスネロスとアルタフィ父を互いにしかけたとありますが、自分が大僧正になりたいんだったら、最初から「祖父パンポンから父パンポンに大僧正の地位は引き継がれたので、今度は娘パンポンが大僧正になりまーす☆ よろぴく、きゅるるんっ♡」って言えばいいだけだったんじゃないでしょうか。


「人がたくさん亡くなったけれど、なぜそうなったのか理由がよくわからない」という小説ジャンルで行くと『薔薇の名前』の向こうを張れるくらいの謎さがあります。



 ここからは良かった点です。


 良かった点1 ドルメン博士になれる

 ドルメンとトロスについての歴史が詳しく書かれていて勉強になります。新石器時代からの変遷とか、金石併用時代とか初めて知りました。

 ここでは訳さなかったのですが、ドルメンと菌類(キノコ)の関連についての記述も面白かったです。小説によると「キノコを大切にする地域ではドルメンも大切にされている」らしいです。そして、ドルメン周辺で珍しい菌類が見つかることもあるようです。小説では、アンダルシア(南スペイン)ではドルメンもキノコも重要視されていない、とのことです。

 確かに、北スペインの人たちは秋になると野山に分け入ってキノコ採りに夢中になります。テレビも北部のチャンネルでは、秋に「キノコ狩り生中継」みたいな番組が増えます。そして確かにピレネー山脈の北部(フランス)と南部(スペイン、カタルーニャ地方)にはドルメンがゴロゴロしています。

 ただ、「キノコを大切にする地域ではドルメンも大切にされている」のは事実かというとちょっと違う気もします。スペインの地図を広げるとドルメンって本当にたくさんあるので、それを全部保護したり調べようとしたりするのは絶対ムリです。だから、打ち捨てられているドルメンも山ほどあります。

 単にアンダルシアは南部のステップ気候で乾燥してるので、キノコが少ないだけなんじゃないの……というのが真実なのではないだろうかと私は思っています。



 良かった点2 礼拝の歴史について詳しくなれる

 小説では、ドルメンは自然エネルギーの強い聖なる場所に作られているため、後の宗教でもその場所を聖地として神殿にしたり、教会にしたりする、というような説明がされています。確かに、教会を作り直すために周囲を発掘したら、ローマ時代のアポロ神殿が出てきた、更にその下にギリシャ神殿があったとかいうことは地中海周辺ではよく見られるので、なるほどなと思いました。

 南フランスの山中で、複数のドルメンを巡るハイキングをしたことがあったのですが、とあるドルメン A の入口に立つと、谷を隔てた山の斜面の丁度正面の位置に教会が見えたのは興味深かったです。あの教会は別のドルメン B の上に建てられていたのかもしれません。

 ただドルメンが聖なる土地のネットワークになっているという説はどうだかなと思います。ドルメンは、夏至や冬至、または春分や秋分の日に玄室まで光が入るように作られていて、その条件を満たすために大体は見晴らしの良い丘や山の上にあります。例えば、私が訪ねたドルメン A は夏至に玄室まで光が入るように出来ていました。前述の教会の下にドルメン B があったとして、ドルメン A と同じ条件で作られたとすれば、大体同じ標高の同じ向きになっていたので、同一線上にドルメンが出来るのはわりかし自然なことじゃないかなと思います。



 良かった点3 セビーリャとその周辺の土地について詳しくなれる

 これは、訳文ではほとんど飛ばしてしまった部分ですが、原文ではセビーリャの都市の場所やら歴史やらがてんこ盛りでした。アルタフィが移動した場所はほぼ観光情報が満載です。この本を持って旅行できるくらいです。セビーリャは特に一九二九年の万博で大規模な都市開発があったらしく、今でもその形を残し、当時のパビリオンも広大な公園や大通り沿いに建っているようです。あと、出てくるレストランが全部実在するのも楽しかったです。私は 37 話で出てきた「カサ ラモス」と 62 話で出てきた「ベンタ ボニート」に行ってみたいです。「ベンタ ボニート」は、プリンガ(蒸し焼きにした肉とソーセージを細かく割いたもの)のサンドイッチが人気のようです。写真を見ると美味しそう。食べてみたいです ↓

 https://www.tripadvisor.es/Restaurant_Review-g776220-d11892689-Reviews-Venta_Bobito-Valencina_de_la_Concepcion_Province_of_Seville_Andalucia.html



 良かった点4 犯人が最後までわからない

 結構最後の最後になるまでジェーンの本性がわからないのは良かったです。死ぬのは五人くらいで良かった気がしますが、最後までハラハラする感じで読めたのでそれは良かったと思います。

 まあ、一度娘を殺そうとした父が何事もなかったかのように帰ってきたり、そのまま父と幸せに暮らし始める母とかはどうなのって気もしますが、以前、スペインのドラマでそういう展開を見たことがあるので、スペインでは割りかし「あり」な設定なのかもしれません。



 良かった点5 ホラー系の記述

 アルタフィのお祖母ばあさんがフライパンの中の人形の目を打ち砕くところと、アルタフィ母がアルタフィに口元の血を拭えというとこはホントにホラーっぽくて良かったです。

 女系家族で一人だけ子供を産むというのも貞子っぽくて良いです。



 あっ、一つだけツッコミ忘れてました。

 ロベルト サウサがアントニオ パレデスに渡した書類には何が書いてあったんでしょうね? 55 話で「フーディンは、アントニオ パレデスの書類を盗んだことを誇りに思った。書類には自分たちの考えを裏付ける内容が書いてあった」と書いてありましたが、実際に、自分たちの考えが何だったのかを説明する行はありませんでした。

 ルイス ヘストソの家がドルメンの上に建ってるってことですかね? 15 話でパレデスは、ロベルト サウサが「これはアルタフィが興味を持つはずだから」と言っていた、と証言していますが、ヘストソの家がドルメンの上にあったからって、当時の彼がアルタフィには関連付ける理由もないし、なんだったんでしょう。サウサ君とパレデスさんはなんか本当に貧乏くじ引かされたっぽい感じで可哀想です。



 たくさん書いてしまいましたが、これで本当にやっとおしまいです。

 長きにわたってお付き合いいただき、心から感謝いたします。ありがとうございました! <(_ _)>



(初掲: 2024 年 12 月 7 日)

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