ドルメン 第 62 話 エピローグ


 確証はないが、アルタフィは知っている。彼女は身ごもっている。アルタフィが持つことになる一人娘を。彼女にはドルメンをの秘密を教えるつもりだ。普通の少女として育てながら、いつかこの智慧を引き継ぐように。


 アルタフィは微笑んだ。ジョン ボイルをモンテフリオのペーニャ デ ロス ジターノスのドルメンに誘うのは難しいことではなかった。行方不明になっているフーディンの手がかりを探しに行こう、と言ったのだ。そして、ドルメンの入口に入るとボイルを誘惑した。受胎の儀式は成功した。ボイルは自分が父親だと知ることはないだろう。アルタフィにとっては、ジョンと、モンテフリオのドルメンを教えてくれたフーディンから授かった子種だった。


 教団はルイス ヘストソの農家を買った。あの家はそのまま残されるだろう。誰からも疑われないように、教団のメンバーが住むことになっている。魂の抜けた死人の孤独だけがあの家の地下を支配するのだ。


 警察はアルタフィを疑ったが、何の証拠も見つからなかった。事件はお蔵入りとなり、ドルメンの黒い聖女の記憶はほかのニュースに上書きされて忘れられていくだろう。


 父は戻ってきた。無傷のまま。今は母と住んでいる。アルタフィをドルイド大僧正だと認めてからは、彼はアルタフィを敬っている。彼も警察の尋問を受けたが、警察は何も証明できなかった。父は未だに警察の監視下にはあるが、何も見つからないだろう。アルフレド グティエレスのその後も聞かない。しかし、アルタフィは彼がもう生きてはいないだろうと感じていた。誰が彼を手に掛けたのか? 教団の誰かだ。しかし、そんなことはもう重要ではなかった。


 教団は平和を愛し、影から人類に智慧を授けるだろう。人類は現実から遠ざかり、仮想世界を信じ始めている。今だからこそ、ドルメン教団は大切なのだ。我々は自然に根付いている。教団は、そこから直接エネルギーを得る方法を知るだろう。夏至や冬至には主なドルメンで自然の神に貢ぐ儀式を行い、それに参加する者の数は増えていくだろう。当局にはもちろん許可を取る。彼らは、我々がニューエイジの集団の一つだと思うだけだろう。哀れなものだ、彼らは知らないのだ。ドルメンが再びその力を興しつつあることを。


 七つの輪の儀式が行われることはもうない。アルタフィは後継者を既に指名している。彼女の娘が次のドルイド大僧正になるのだ。もう血は流さない。


 誰にも疑われずに生活は続く。聖なるバレンシナにある一軒家で普通の家族の暮らしを送るのだ。十月の第二日曜日にはトリホスへの巡礼の祭りに参加し、バレンシナ特産のマンタ ドブレというかりんとうに似た菓子を食べる。そして千八九十年から続く老舗レストランの「ベンタ ボニート」で食事を楽しむ。ごく普通のバレンシナの家族だ。


 レンヌで二百年続いたドルメン教団は、巨石文化の中心地であるアンダルシアに移った。アルタフィは自分の力を感じている。しかし、たった一つだけ憂慮がある。それは遅かれ早かれ、彼女が若返るための少女の肉体が新月の夜に必要になるだろうということだ平和な教団なんじゃないの?。魔女? この血筋がそのように続いてきたなら、今後も続くだけだ。しかし、娘には言わずにおこう。少なくとも今は。


 そしていつか黄色い蝶がアルタフィの最後を告げるまで、娘はアルタフィの側に留まるだろう。アルタフィが祖母についていたように。アルタフィがこの世を去るとき、娘には手を握って額に優しく口づけて欲しい。そして今度はアルタフィ自身がドルメンのエネルギーとなるのだ。文明の黎明から私たちを忍耐強く待ち続けている、壮大で力強いドルメンの。



〈了〉


(初掲: 2024 年 12 月 7 日)



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