国直轄の特務機関「対怪異浄化情報収集室」。ひょんなことから、その組織で働くことになった梅小路翠子さんを中心に、ぶっきらぼうな先輩上司の烏丸颯君、「見えない側」の人であるにも関わらず「怪異」大好物な勧修寺先生、魅力ある個性的な面々がその能力を駆使して怪異を祓う冒険活劇……的な物語ではありません。彼ら一人一人の内面や巻き起こる怪異が、やわらかな語り口で繊細に丁寧に描写されるので、奇妙な現実感を伴って読み手に迫ってきます。「脱皮する人間(!)」「ひとに寄生する植物」など、どのエピソードもタイトルだけ見れば、おどろおどろしい印象を受けますが、どちらかといえば硬質で乾いた筆致が、不思議な空気感を立ち上げて、奇妙な味わいの幻想譚に仕上がっています。その文章を噛み締めるように、物語を味わってください。
北陸の旧家、梅小路家の一人娘、翠子さんは祖母が亡くなった冬のとある日、ふと自分の左足の小指が「ほどけて」いることに気づきます。日を追うごとに、次は右足の小指が、そして次は左手の小指が……。
そんな怪異に見舞われた彼女を救ったのは、銀縁眼鏡にスーツの男性と、街の若者然とした二人組でした。
彼らは怪異を調査し、祓うという公的機関に属する人々だというのですが——!?
自身に起きた怪異をきっかけに、その謎の機関「対怪異浄化情報収集室」に所属し、怪異と対峙することになった翠子さん。名家のお嬢さんらしくどこかおっとりとしていながらも芯はしっかり者の彼女と、怪異が大好きで分析はピカイチ、でも「見えない」トラブルメーカー気味な先生、勧修寺双樹、なんだかんだ彼らの世話を焼いてしまう「祓える」青年、烏丸颯。
三者三様それぞれとっても個性的な彼らが挑む怪異は人の心に潜む様々な情念が絡んでいるのですが、翠子さんの視点を通すことでどこか軽やかで——それでも怖いものはやっぱり怖かったり……と先が気になってあっという間に読み切ってしまいました。
いくつもの事件を解決する合間に見えてくる思わぬ縁に、このレビューのタイトルにも使わせていただいた翠子さんのセリフがとても響いてきます。
少しずつ進むもだ恋も魅力。そして何より翠子さんの目を通して語られる世界が不思議と美しさに満ちていて、まだまだ解けていない「呪」の秘密も気になるし、続きをください!! と叫びたくなる一作でした。ください!
ある日、自分の小指がほどけてしまった――。
そんな不可解な現象が起きた翠子さんのもとに、ある日特別なものしか入れない『対怪異浄化情報収集室』の職員がやってきました。
「これはあなたじゃなくて、あなたの家にかけられた呪いだ」
「糸になるのだったら、縫い合わせるか、あるいは編み込むのが良さそうだねぇ」
その呪いのため、少々、いえかなり特殊な機関で働くことが決まった良家の子女翠子さんですが、彼女はとても前向きでした。
「信じたいんです。自分の力で出来ることを」
彼女の職場は個性あふれる人達ばかり。
呪いの干渉を受けやすく、記憶などを読み取ることが出来る梅小路翠子さん。
口調は荒いけど、翠子さんのほどける小指を編んでくれる烏丸颯くん。
心霊現象に興味津々、そんな仕事を生業にしているのに、怪異の類が一切見えない勧修寺双樹先生。
視える力と賭け事と度胸がすごい、サバサバした胡桃沢巴さん。
人を呪うもの。悲しみを抱くもの。
事件を起こす呪物を浄化するため、それぞれ悩みや願いを秘めながら。
「浄化室」は今日も行く!
作者さまの趣味てんこ盛りで書かれたというこの作品。見事そのアンテナに引っかかり、私の「好き!」もぎっしり詰め込まれておりました。とても楽しい!
呪や怨念がこもってしまった怪異を浄化、祓うことを生業とする人たちが集まる『浄化室』を舞台とした現代ファンタジー。主人公翠子さんの落ち着いた語り口を中心に、他視点を交えながらの展開もスピーディーで、心地よい筆致の作品です。
翠子さんの「指がほどけていく」という、衝撃的な出来事から物語は始まります。「指が、ほどける?え、大丈夫?」ってなるんですが、はい大丈夫です(ひとまずは)。ちゃんとほどけた指を編んでくれる人がいるんですね。それが年下上司の颯くん!
キャッチコピーにある『不器用な恋』のお相手というかご本人というかの颯くん、私はこの人がツボすぎて大好きになってしまいまして。たまに残したコメントはほぼ彼のことを叫んでいるだけだった。作者さま本当にすみません。反省。
浄化室の仲間たちと一緒に怪異の祓い・浄化へ立ち向かう翠子さん。一生懸命で、だけど悩みや葛藤も抱え少し危なっかしさもありながらも成長していく姿を見せてくれ、お仕事小説としても楽しめるのではないかと思います。
完結ではあるものの、ほどけてしまう指先の呪いや、ふたりの恋の行方、個性的な浄化室の面々には掘り下げエピソードなどもありそう(たぶん?)。続編を期待してしまう面白さです!