第4話

〝振り返ればあっという間のことでした。私がここまでこれたのは、さまざまな出会いがあったからです〟


 有名人が過去のことを振り返る時、みな決まりきったことしか言わないと子供の頃は感じていたが、今、自分の立場を振り返れば、まったくもってそのとおりであった。

 小さなカケラをなくさないよう、握りしめながら歩いてきたこの道は、良き出会いに恵まれ、多くの人に助けられたからこそ続いている。数えきれないほどたくさんの足跡が行き交っている。ひとりでここまできたなぞ、とてもではないが言えない。


 飽きたらず君を描き続けてきた。

 そこそこどころではない苦難の道で、本当に色々なことがあった。

 君のおじさんの元に弟子入りしたこともある、なんて言ったら君は目を丸くするだろうか。

 マンガの作風から頑固そうな人だと感じていたが、あそこまで偏屈屋だったとは思いもよらなかったよ。君の親戚だというのに、素直で明るかった君とは似ても似つかない。

 散々しごかれて、数え切れないぐらいぶつかりあって、一時は疎遠になったこともある。

 けれど私の読み切りマンガが週刊少年ダッシュに載った時に誰よりも喜んでくれたのはあの人だ。

 多くの声に支えられ連載が始まってからは、嵐のような日々だった。

 倒れそうになっても何とか立ち上がれたのは、たくさんの人の好きという言葉に支えられてきたからだ。君の言葉は私の中で残り続けている。

 そして今、小さな自分の夢から始まった旅は一つの区切りを迎えた。


 腰痛を患ってもう長い。しばらくは療養に努めるが、また始める気だ。この道はまだ続いているのだから。

 タッチペンを起き、ストレッチをしようと席から立ち上がる。

 ふと辺りを見回せば、仕事場ではない、どこか清潔感のある部屋の中に立っていた。

 この場所を私はよく知っている。


 すぐ近くの入り口から中をのぞけば、君はあの日と同じように一番左後ろの机に座り週刊少年ダッシュを読んでいた。

 今までどこにいたんだよとか、もっと早く出てこいよとか、言いたいことも話したいこともいっぱいある。でもまず初めに君の感想を聞かせて欲しいんだ。


 腰のいたみがなくなり、まるで初めて君と会った頃のように体は軽い。

 迷いなく教室を突っ切り、後ろから二番目の机に座る。

 今日は俺が描きおえた連載マンガの最終回がのっている、週刊少年ダッシュの発売日だった。

 何でもない風を装って、そわそわしながらテキストを並べ、君がダッシュを読み終えたタイミングで、振り返ってあの日と同じように君に問いかける。


「何が好きなの?」



 〈夢のカケラ 了〉

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夢のカケラ ももも @momom-

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